日本企業の資産現金化に尹錫悦政権も焦り
韓国政府が、徴用工問題の解決策を探るため、政府や専門家による官民共同の協議会を近日中に発足させると、韓国のソウル新聞が6月20日に報じた。
徴用工問題解決のめどが立たない状況が続き、尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権の焦りも感じられる。
尹大統領は就任前から、日韓関係改善に意欲を示してきたが、いまだ日韓首脳会談も実現していない。
日韓間の懸案事項である徴用工問題や慰安婦問題が未解決であるとして、日本側は依然として強硬姿勢であることが影響している。
特に徴用工問題では、日本企業の在韓資産の「現金化」というタイムリミットが迫っており、尹政権としては、具体策を見出すことが急務となっている。
日韓関係を史上最悪にした2018年大法院判決
これまでに韓国で提起された徴用工訴訟は、39件が確認できている。
原告数は延べ1000人超、被告企業は計115社にのぼる。現在も30数件が係属中で、うち9件は大法院(最高裁)の審理中だ。
大法院で日本企業の賠償判決が確定したのは計3件。
2018年10月確定の日本製鉄(旧新日鉄住金)訴訟1件と同年11月確定の三菱重工業訴訟2件である。
この2018年大法院判決を日韓関係悪化の契機とする見方も多い。
大法院判決後、高裁が訴訟時効について、「2018年10月から最長3年間は新たな訴訟が可能」との判断を示したことで、相次いで同種訴訟が提起されることとなったからだ。
資産の現金化手続きが最終段階に
現金化とは、敗訴した日本企業の資産を差し押さえ、売却して原告への賠償金にあてるというものだ。
現金化の手続きは、原告別に差押命令→売却命令→現金化の順で進められる。いずれの命令に対しても、被告企業側からの抗告(三審制)が可能だ。
日本製鉄は、ポスコとの合弁会社PNRの株式、計19万4794株が差し押さえとなった。
一方、三菱重工業は、原告4人からの請求で、同社のロゴマークを含む商標権2件と特許権6件が差押命令の対象となった。
両社は、差押命令に対して、いずれも即時抗告している。
日本製鉄の上記株式と三菱重工業の商標権2件・特許権4件に関しては、差押命令の抗告が棄却され、売却命令が出されたため、今は売却命令の抗告審に入っている。
この内、三菱重工業の商標権2件・特許権2件分の審理については、最終審である最高裁に進んでいる。ここで棄却の判断が下されば、いよいよ資産の現金化が可能な状態となる。そうなれば、今年中には現金化がなされる見込みだ。
日本政府は「解決済み」と主張して取り合わず
日本政府は、「徴用工の請求権問題は、1965年の日韓請求権協定で解決済み」との立場で2018年の大法院判決を一貫して拒否している。
もし、資産の現金化が行われ、企業に実害が生じれば、対抗措置を行うと警告してきた。
被害者中心主義を掲げていた文在寅(ムン・ジェイン)前政権は、任期終盤になって、徴用工問題や慰安婦問題について外交的解決を表明したが、日本政府は応じなかった。
韓国の言い分としては、「当事者、犠牲者に寄り添った解決案を日本と話し合いたい。日本も譲歩すべき」というものだが、解決済みとする日本は取り合わなかったのである。
このような経緯もあるので、韓国側が具体的措置を講じない限り、日本が納得しないことは、尹大統領もよくわかっているだろう。
資産が現金化されると日韓関係は…
だが、日本政府と元徴用工の双方から理解を得る解決策を導き出すことは、非常に困難である。
韓国政府が、日本企業の賠償金を立て替える「代位弁済」案も浮上したが、原告である元徴用工側からは否定的な声が上がった。
とはいえ、日本政府が解決済みとして議論に応じない中では、代位弁済案か司法に介入するというとんでもない強硬策くらいしかないだろう。
問題を棚上げして、解決を先延ばしにしたとしても、現金化がなされれば、日韓関係は確定的に悪化するのは間違いない。
尹政権が日韓関係をどうしても修復するのであれば、何らかの具体的な道筋を示した上で、日韓で協議を重ねるほかない。
八島 有佑
@yashiima
徴用工。日本メディアはどこも聯合ニュースや朝鮮日報をそのまま載せてるだけ。独自のデータは日本人も知りたいところ。