半導体や造船と並ぶ重要輸出産業・K-POP
2013年にはPSYの「江南スタイル」が欧米でもブームを巻き起こし、昨年はBTSがグラミー賞にノミネートされるなど、K-POPは世界の音楽市場で大きなシェアを占めるようになった。
現在は世界の主流音楽ジャンルの1つ。半導体や造船と並んで、韓国では重要輸出産業の1つになりつつあるという。
韓国関税庁が公表した貿易統計によれば、昨年のCD輸出額は2億2083万6000ドル(約286億円)。5年間で輸出額は約5倍にも増えている。しかも、これを最も多く輸入しているのが日本。輸入総額は7804万9000ドル(約101億円)にもなる。約4247万ドル(約55億円)の2位中国を大きく引き離し、全体の3割以上を占めている。
また、韓国の音楽関連産業全体の輸出額比重は、日本向けが60%以上を占めるとも言われている。
J-POPの海外展開は、K-POPの3%程度とだけに、音楽に関する貿易収支は、日本側が大幅な赤字を被っていることは間違いない。
K-POPは“日本向け輸出品”として造られた
韓国政府は、2009年に大韓民国国家ブランド委員会を設立し、国を挙げて音楽産業の育成に力を入れてきた。
ユーチューブやSNSを駆使した広報活動など、成功を達成した今日でもK-POPを世界に売り込もうという意欲は旺盛だ。
国内市場の小さな韓国の音楽業界は、外国にコンテンツを輸出して稼ぐしかない。
すぐ隣には、世界第2位の巨大市場・日本がある。それを標的に日本人が好みそうなアイドル像を造り上げ、アーティストたちは、日本語の習得にも時間を費やした。その戦略が見事に当たり、今日の栄華を築くことができた。
現在、日本の中高生に「好きなアイドルは?」と問えば、K-POPスターの名が普通に上がってくる。これも官民挙げての努力の成果だろう…。
けど、日本がK-POPの輸入にまったく規制をかけないのに対して、韓国では音楽をはじめとする日本文化の輸入にいまだ数々の障壁がある。
「この不公平が、音楽コンテンツの貿易赤字を生む一因ではないか?」そんな声も聞かれる。
韓国でJ-POPは「敵性音楽」として規制される
実際、韓国では近年まで「大衆歌謡」に分類される日本語の歌については、公演や放送、音楽コンテンツの販売を禁止していた。
2000席以下という席数制限を設けて日本のミュージシャンによる公演が認めたのが1999年、レコードやCDの販売が許可されたのは2004年のことである。
昔と比べて規制は緩和されつつあるようだ。が、現在も地上波の放送では、日本語の音楽について局側が厳しく自主規制している。
2014年には、自国のアーティストに対しても「歌詞に日本語的な表現がある」として韓国の公共放送が「放送不適合」の判断を下したことが話題にもなった。
こんな状況ではJ-POPの韓国輸出を拡大するのは難しい。
韓国がTPP参加に必要な制限撤廃
日本もまた、聖域とするコメの自給率を維持するため、輸入米には厳しい制限を設けているが、それと似たようなものか。
しかし、2018年に日本を含む11か国が参加して成立した自由貿易協定である環太平洋経済連携協定(TPP)には、韓国も参加を検討している。
TPPは、原則的には関税など輸出入に関するすべての障壁を撤廃し100%の自由化を実現するというのが、TPPの目指すところ。
音楽コンテンツもまた同じ。日本語の音楽に対するあらゆる制限を撤廃せねば、韓国は参加資格を得られないだろう。
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、近著『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社、2021年)。「さんたつ by 散歩の達人」で連載中。