文政権で勢力を増した“水曜集会”がピンチ
文政権で勢力を増した“水曜集会”がピンチ
ソウルの日本大使館前の路上では、毎週水曜日になると市民団体が集まって慰安婦に対する日本からの謝罪と賠償を求める定例集会が催される。
その歴史は古く、今年で30周年を迎えるという。今では“水曜集会”の通称も定着し、ソウルの風物といった感もある。
文在寅(ムン・ジェイン)政権発足後は、集会参加者が急増し、勢いを増していた。「反日」を象徴する眺めとして日本メディアに取り上げられることも多く、近年は日本人にもよく知られている。
新型コロナウイルス流行に伴う集会人数制限が行われるようになってからも、オンライン配信を併用しながら毎週の集会は続けられてきた。
今年3月になって韓国政府の方針が制限緩和に転換したことで、4月20日水曜日の集会は久しぶりに大人数が集まって盛り上がるはずが…、開催が危うい状況になったのだとか。
慰安婦像の設置で“反日運動の聖地”となる
水曜集会は正義連の通称で知られる「日本軍性奴隷制度問題解決のための正義記憶連帯」(旧韓国挺身隊問題対策協議会)が中心となり1992年に始まった。
2011年には1000回目の集会が催され、それを記念して集会場所である日本大使館前の歩道に慰安婦像が設置される。
以後、この像は集会に集まる人々から運動の象徴として崇められ“聖地”となってゆく。
保守系団体の妨害と尹美香氏の威勢が失墜
しかし、その聖地に2年ほど前から「慰安婦は詐欺」とシュプレヒコールを上げる保守系団体が集まり、水曜集会を妨害するようになった。
昨年5月頃から保守系団体が水曜日を狙って付近での集会届けを提出するようにもなり、激しい場所取りバトルを繰り広げている。そのため、水曜集会は、聖地である慰安婦像前から離れた場所に追いやられるようになる。
中央日報日本語版によれば、4月20日も慰安婦像周辺は、保守派団体が先取りして集会を申告し、水曜集会を締め出したという。
聖地を奪われてしまっては、参加者の気勢も上がらない。
また、集会を主催する正義連も逆風にさらされている。
幹部たちが元慰安婦の補助金や寄付金を着服している事実も明るみとなり、一般国民はあきれて完全にそっぽを向かれてしまった。
尹美香(ユン・ミヒャン)前代表は、2020年に共に民主党比例代表で国会議員に選出されているが、今年1月に党を除名処分になっている。
かつては与党内での発言力絶大で、マスコミも尹代表の言うことには絶対に逆らわなかった。
正義連が主催する水曜集会や慰安婦像を批判することなど、許されない状況だった。が、そんな女帝の威勢も今は見る影もなく「逮捕は間近」とか囁(ささや)かれる。
次期政権は慰安婦像を撤去する!?
正義連や水曜集会を支持する各市民団体も巻き返しに必死になっている。
ハンギョレ新聞の報道によれば、4月20日午前に市民1519人と正義連など244の団体が主催となって水曜デモの正常を求める記者会見が慰安婦像の前で開かれた。
「水曜デモはどんな場所でも開ける集会ではない」として、保守系団体が集会の自由を阻害していることを訴え、聖地である慰安婦像前での集会を復活させることを求めている。しかし、民意を失った状況では、それも難しいだろう。
また、日本大使館前の慰安婦像設置や反日集会は、外国公館前での侮辱行為を禁じたウィーン条約に違反しているというのは、以前からよく指摘されていたこと。
朴槿恵(パク・クネ)政権が、「外国公館の保護や国際儀礼の面から好ましくない」という立場を表明していたが、文在寅政権はそれを黙殺してきたという経緯がある。
次期政権にまともな国際法の知識と外交感覚があれば、慰安婦像の撤去が実現するかもしれない。
外国大使館前での敵対的な集会もまた許されるはずがない。伝統の集会に終止符が打たれる。そんな可能性が見えてきた。
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、近著『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社、2021年)。「さんたつ by 散歩の達人」で連載中。