解体が確認された「海金剛ホテル」
北朝鮮の景勝地・金剛山に隣接する「海金剛ホテル」は、かつて世界最大級の海上係留式ホテルとして話題にもなった。
韓国企業によって運営され、金剛山観光ツアーの目玉の1つとして、韓国人にもその名を知られていた。
しかし、2008年に北朝鮮兵士による韓国人女性観光客射殺事件が起きて以来、金剛山観光は中断されたまま。
北朝鮮側もこの巨大施設を持て余していたようで、2019年に最高指導者の金正恩(キム・ジョンウン)総書記が金剛山を訪問した時には、
「見るだけで気分が悪くなる。撤去して自然景観と見合った現代的な施設を建設するべき」
このように語っていた。
最新の衛星写真で解体作業が行われていることが確認され、どうやら、その言葉が実行に移されたようである。
かつての南北融和を象徴する建造物なだけに、韓国では新聞やニュースでも多く報道されて注目を集めている。
洋上ホテルには流転の歴史があった
金剛山は白頭山と並ぶ朝鮮半島有数の名勝、古代朝鮮王である檀君の神話でも語られた伝説の山である。
1998年には金剛山観光特別区が設定されて、韓国人観光客が押し寄せるようになる。が、近隣に優良な宿泊施設がないのは問題だった。ホテルを始めから建設するとなれば数年かかる。それを待ってはいられない。
そこでベトナム・ホーチミンで廃業して放置されていた海上浮上式ホテルを北朝鮮が購入。これを金剛山付近の海上に移動させ、韓国企業の運営による2000年に海金剛ホテルとしてオープンさせた。
元々は1988年にオーストラリア人実業家によって建造され、グレートバリアリーフで営業していたものだ。
7階建ての館内には200室以上の客室があり、テニスコートやヘリポートなども完備されている。しかし、現在はメンテナンスもされず朽ち果てていたようでもある。
リゾートホテルにも起源説を主張?
海金剛ホテルの件に関しては、4月8日に韓国統一省の副報道官もコメントしている。それによると、
「北が海金剛ホテルを一方的に解体していることは南北合意の趣旨に反する」
として遺憾の意を表明。すぐに解体を中断して韓国側と協議するよう求めた。さらに、「国民の財産保護のため、必要な措置をとる」と、強い口調で語っている。
「北朝鮮が韓国資産を破壊」「韓国が造った洋上ホテルが壊される」などというコメントがSNSでも目につくという。
けど確かに、ホテルの開業には韓国資金が入っているのかもしれないのだが…、それを「韓国資産」と言うのはどうだろうか。
洋上ホテルを造ったのは、オーストラリアの実業家であり、表向きには北朝鮮政府が購入したことになっている。韓国企業はそれを運営していただけ。拡大解釈している感が否めない。
やたら起源説を主張し、中国人や日本人との論争を始めてしまうのは、韓国ネット民の性癖だが、ついには、同族にまで似たようなけんかをふっかけようというのか。
かつての南北融和の象徴的建造物。それが、南北の諍(いさか)いを増やすことになりはしないか。と、少し心配になってきた。
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、近著『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社、2021年)。「さんたつ by 散歩の達人」で連載中。