丹東中威が注目されるのは大同江ビールだけではない
「利益が大きな缶ビールへ力を入れたいのですが、4か月ほどで売り切らないといけないので大変ですよ」
こう話すのは、中国遼寧省丹東にある丹東中威工貿有限公司の担当者。
丹東中威は、知る人ぞ知る中国における大同江ビールの輸入総代理店だ。同社は、輸入する大同江ビールの全権を握る唯一の会社となる。
北朝鮮から丹東中威へ運搬された大同江ビールは、各販売店を経由して中国国内で販売されている。
大連のある朝鮮族実業家が丹東中威と販売契約を結ぶために丹東を訪れた。
日本の研究者やマスメディアは丹東中威工貿有限公司の動向に注目している。その理由は、大同江ビールだけではない。
丹東中威は、米国が2016年に制裁対象に指定し、19年には、ニュージャージー州連邦大陪審へ起訴された馬暁紅氏が率いた丹東鴻祥実業発展有限公司のグループ企業だからだ。
馬氏は、美人経営者として時代の寵児となった経営者だった。米国が馬氏ら関係者4人を制裁対象にした直後に中国では馬氏が脱税容疑で逮捕された。馬氏は、今も表舞台では確認できていない。
馬暁紅氏の鴻祥グループから離脱か
丹東鴻祥のトップだった馬暁紅氏が逮捕された後も、丹東中威は大同江ビールの輸入を絶えることなく続けてきた。
丹東中威の担当者曰く、「すでに鴻祥グループからは離れている」とだけ短く説明したとのことだ。
現在の丹東中威の代表は、漢民族の女性で朝鮮族ではないそうだ。そういえば、馬氏も漢民族だった。漢民族が北朝鮮とビジネスを…という意味でも馬氏は注目されたのだ。
丹東には丹東中威が運営するちょっとしたビアガーデンがあり、大同江ビールを飲むことができる。
新型コロナウイルス収束後、観光業が復活したら、観光客を呼べるような本格的なビアガーデンに改装する計画もあるそうだ。
丹東中威が輸入する大同江ビール全種類が楽しめるような場所になれば、新たな丹東の観光スポットになるかもしれない。
海上輸送で丹東まで2か月かかる
現在、丹東中威が北朝鮮から輸入販売する大同江ビールは瓶が主流となる。
しかし、瓶が割れないように梱包して運搬するため、箱が大きくなり場所を取ってしまうのが難点となる。そこで、同社は、登場して日が浅い缶ビールの販売に力を入れたいと考えているようだ。
しかも、330ミリリットルの缶ビールのほうが、500ミリリットルの瓶ビール(黒丸2号)よりも利益率が高い。
缶は破損の心配が少ないので隙間なく梱包でき、低コストかつ最小限のスペースで運搬できるなど良いことずくめに思える。
しかし、問題は賞味期限にあった。瓶の1年間に対して、缶は賞味期限が半年間しかない。
現在、北朝鮮で生産された大同江ビールが丹東へ到着するまでおよそ2か月かかっているという。
輸出準備に数週間。海上輸送に約1か月間。その後、新型コロナ対策で2週間ほど保管されて、陸路で運ばれる。
そのため、缶の大同江ビールは、正味4か月間で売り切る必要があるというわけだ。これが瓶ならまだ10か月間あるので、この差が大きなリスクになっていると丹東中威は頭を悩ましているようだ。