出産した医療機関も出生を通報するよう義務化
大統領選に韓国民の注目が集まっている最中の3月2日、韓国の国務会議は、出生届通報制の導入を決定。この後は国会で議決されるという。
現行法では親だけに出生届の提出義務があるのだが、この法案が国会を通過すれば、出産した医療機関も行政機関へ出生の事実を通報する義務が生じる。
親が出生届を出さなかったがために、子供たちが不利益を被ることのないよう配慮したものだ。
中国では、かつての1人っ子政策のために、罰金や罰則を恐れて出生届を提出しない親が多くいた。
そのため、1300万人の無戸籍児がいると言われ、社会問題にもなっている。
しかし、韓国では、子供が何人いようが不利益にならず、出生を隠す必要はない。また、発展途上国でもないのだから出生届を提出してない無戸籍の子がいれば、すぐに行政が見つけて適切に処置するはず。
と、思うのだが…。実は、行政側が気づかないまま何十年も放置されていた無戸籍児が、韓国にも存在した。それが最近、マスコミにも取り上げられて話題になり、今回の出生届通報制を導入する1つのきっかけにもなったという。
20年間無戸籍だった3姉妹が発見される
その事件が伝えられたのは、昨年末12月30日のこと。済州島で出生届が出されないまま20年以上が経過し、世間から存在しないものとして扱われていた3姉妹が発見された。それがテレビや新聞で取り上げられ、
「まさか、我が国でそんなことが…」
と、ショックを受けた韓国民も多かったという。
発見当時、3姉妹の年齢は、それぞれ15歳、22歳、24歳。40代の両親と同居していたが、親たちは婚姻届を出さずに事実婚状態で姉妹を育てていた。
姉妹の父親が死亡したことで無戸籍児の存在を行政側が知ることになる。
昨年12月20日、3姉妹と母親が父の死亡届を出すために連れ添って地元の役場を訪れた。この時、窓口で応対した職員にある疑問が思い浮かぶ。目の前にいる3姉妹の存在を証明する書類が、どこにも見あたらないのだ。
「あなたたち出生届は提出していますか?」
職員もまさかと思って聞いてみたのだが。それがまさかではなかった。
母親の証言によれば、産後の体調が悪く出生届の提出を怠り、その後も手続きが複雑なので面倒になり放置していたという。
その後、20年以上にわたり3姉妹には、この世に存在しないものとして、行政サービスを受けることができなかった。身分証明証は発行されず、健康保険がないので、病院へ行けず、学校の授業を受けたこともない。
事実を知った地元の済州市役所は大騒ぎになり、今後の対応に奔走しているという。
日本にも存在する多数の無戸籍者
実は、日本にも無戸籍者は存在する。
2015年の法務省が調査では686人の無戸籍者が発見され、そのうち132人が成人に達していたという。
最近では離婚や不倫などで、父親が認知を拒んで出生届が提出できず、そのまま放置されていた例もよく見られるとか。
日本の戸籍法では、原則として出産から14日以内に市町村役場に出生届を提出せねばならない。
届出の義務者は父、母、同居人、出産に立ち会った医師・助産師の順となっている。
しかし、義務を怠った場合の罰則は3万円以下の罰金と軽い。これでは不心得者たちに対する抑止力にはならないか。
韓国と同様に医療機関の出生届通報を義務化させるなど、無戸籍児の悲劇を防ぐための追加措置を考える必要はあるのかもしれない。
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、近著『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社、2021年)。「さんたつ by 散歩の達人」で連載中。