文在寅政権にとっては他人事

文在寅政権にとっては他人事

フィリップ・ゴールドバーグ新駐韓米国大使(左) U.S. Department of State from United States [Public domain], via Wikimedia Commons

 昨年1月にハリー・ハリス氏が退任して以来、後任が決まらず1年以上も空席だった駐韓米国大使がやっと決定した。

 2月11日にホワイトハウスは、在コロンビア大使のフィリップ・ゴールドバーグ氏を駐韓大使に指名したことを発表。前任のハリス大使と韓国政府の関係が悪かったこともあり、難産の人事たったと推察される。

 この人事は、今年1月には内定し、韓国政府に通知されていた。

 韓国内でも新聞やテレビで伝えられたが、この時は、国民の関心が目前に迫る大統領選に向いており、注目が集まることはなかったという。

 新大使の韓国赴任には、議会の承認を得る必要がある。

 手続にはまだ数か月の時間を要するだろう。その頃には文在寅(ムン・ジェイン)大統領は任期満了となり、閣僚も退陣しているはず。

 それだけに文政権にとっては他人事。国民たちと同様に関心が薄かったようだ。

新駐韓大使に反応して北朝鮮が「祝砲」発射!?

 韓国よりもむしろ北朝鮮のほうが、この新大使に注目しているようでもある。

 ゴールドバーグ氏は、オバマ政権の時代に米国務省履行調整官を務めた経歴がある。

 この時には、北朝鮮の核開発や大量殺傷兵器の保有について徹底的な追求を行った。経済制裁や制裁逃れの密輸入摘発など、各国に働きかけて北朝鮮が嫌がることを主導したことでも知られる。

 「対北朝鮮の死神」

 と、各国の外交官の間ではあだ名された。そんな人物が、韓国大使として赴任してくるのだから、北朝鮮も冷静ではいられない。喉元に刃物を突きつけられた気分だろうか。

 新大使の内定が発表された翌日、北朝鮮はミサイル発射実験を行った。その後も数回にわたり、極超音速ミサイルなど自国開発の最新技術を見せびらかすように発射実験を繰り返している。

 この強硬な態度は、新大使人事への反発。あるいは、「死神」の恐怖に怯えての空元気か。

文政権は新大使の就任を阻止できたが…

 ところで、各国が新しい大使を派遣する際には、あらかじめ相手国にそれを通知して同意(アグレマン)を得る必要がある。

 大使の人物が気に入らなければ、相手国には、これを拒否することもできる。

 2010年には、駐ベネズエラ米国大使の予定者にベネズエラ政府がアグレマンを拒んで就任を阻止したことがあった。

 また、昨年は日本政府のアグレマンを得る前に、韓国が姜昌一(カン・チャンイル)駐日大使の内定を発表し、日本政府がこれを外交上の非礼として「極めて遺憾」と怒ったことも記憶に新しい。

 韓国政府がゴールドバーグ氏のアグレマンを拒否して就任を阻止することも可能だった。

 が、それをやったら米国との関係は完全に破綻する。北朝鮮との宥和に熱心だった文大統領も、さすがにできなかったようである。

青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、近著『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社、2021年)。「さんたつ by 散歩の達人」で連載中。 

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