韓国海軍の駆逐艦名になっている広開土太王
1月3日の朝鮮日報日本語版が、中国が古代史を歪曲していると糾弾する記事を配信している。
中国の吉林省通化市で1956年に発見された万発撥子遺跡を中国が「満州族の文化」として宣伝していることに怒ったものだ。
韓国では、万発撥子遺跡を朝鮮民族の古代国家である高句麗のものだと認識している。
しかし、遺跡の近くに開館した通化市博物館では、それが中国の少数民族満州族のものであるかのように描写され、遺跡周辺に整備された公園も満州文化一色に彩れているという。
高句麗は、紀元前1世紀頃から起こり、最盛期の5世紀には朝鮮半島北部から満州にかけて広大な勢力圏を築いた。
中国にまで版図を広げた精強な古代国家、自分たちはその末裔(まつえい)と考える韓国人には、自負心を満足させる存在だろう。
高句麗王朝を描いた韓流ドラマ「広開土太王」が人気となり、韓国海軍ではこれを駆逐艦の艦名になっていることでもわかる。
それだけに“従軍慰安婦”や竹島問題と同じくらいに、韓国民にとっては許すことのできない“歴史歪曲”なのだ。
高句麗王朝は中国の地方政権か!?
しかし、高句麗を巡る中韓の歴史論争は今に始まったものではない。高句麗を建国したのは、満州族の祖とされる女真族だとして「高句麗の歴史は、中国史の一部」という考えが、中国には昔から根強くある。
1997年からは国家プロジェクトとして「東北工程」と呼ばれる歴史研究が進められ、その中で高句麗や百済などの古代朝鮮国家を中国史の地方政権として扱うようになった。
韓国では当然のことこれに強く反発。万発撥子遺跡の“歴史歪曲”もまた東北工程の一環と思っているだけに反発も激しくなる。
中国側の研究によれば、現代の韓国や北朝鮮と高句麗とでは、民族的にも文化的にも隔たりが多いという。むしろ女真族が属するツングース系民族に近いという見解だ。
また、韓国では英雄として扱われている第19代広開土王の業績をたたえた「好太王碑」には、高句麗を建国した初代東明王の生母は「河伯の女郎」と刻まれている。
歴史論争というよりは政治色が色濃い
歴史論争というよりは政治色が色濃い
中国側の東北工程には、うなづける部分も多々あるのだが…、歴史研究というよりは、政治色の臭いが濃厚なことは否めない。
中国のネット上では、韓国の高句麗史をファンタジーなどと呼ぶ皮肉も確認できる。
しかし、韓国側もまた「高句麗は朝鮮民族の古代国家」という原理原則に固執する。
日本との歴史問題にも似た姿勢で、自分たちの主張に反する新発見などは、すべて「歴史歪曲」と認定して無視されそうな感じではある。
多くの証言者が健在する近現代史でさえ、様々な主張や意見があり、真実がはっきりしない事柄は多い。
ましてや古代の話となればなおのこと。これまでの歴史を疑い新たな真実を求めて研究を続ける姿勢が必要だろう。
日中韓の3か国が絡む東アジア史においては、それが一番難しいのだが。
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、近著『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社、2021年)。「さんたつ by 散歩の達人」で連載中。