レームダック政権に訪問を熱望して何の得があるのか

レームダック政権に訪問を熱望して何の得があるのか

エジプトを訪問した文在寅大統領 出典 韓国大統領府公式ツイッター

 「文大統領に会おうと30か国以上が列に並ぶ」

 1月25日の朝鮮日報日本語版にこのような見出しを立てた記事が掲載された。

 今年1月に文在寅(ムン・ジェイン)大統領は夫人を伴ってエジプト、サウジアラビア、アラブ首長国連邦の中東3か国を訪問している。

 これには国内にコロナウイルスが蔓延して大変な時期だけに、野党や国民の反発が大きかった。

 韓国大統領府の国民疎通首席補佐官は、それに対して、中東訪問は該当国からの要請に応えたものだと反論。さらに30か国以上が文大統領の訪問を熱望していると、人気者アピールで批判の矛先をかわそうとした発言が、この記事になったものである。

 しかし、末期のレームダック政権に訪問を熱望しても何の得があるのだろうか。

 韓国では、今年3月に大統領選挙が行われる。憲法の規定で現職大統領の再選を禁じているだけに政権の終焉は間近なのだから。

韓国製兵器を世界の国々が欲しがっている

 大統領府によれば、中東では韓国製兵器への関心が高く、今回の大統領訪問によって兵器輸出が促進されることが期待されるという。

 実際、今年2月1日になってエジプト政府との間では、自国開発したK9自走砲の輸出契約が締結された。

 また、アラブ首長国連邦とは“韓国型パトリオットミサイル”と呼ばれる弾道ミサイル迎撃システム「天弓2」の輸出契約がまとまったという。

 これを見れば、「大統領訪問には、確かにそれなり成果はあったと考えるべきか?」

 さらに大統領府は、文政権下の数年間で「韓国は防衛産業強国の地位を確立した」とアピールしている。

 韓国のブランド価値が急速に上昇し、特に兵器産業や水素などの新エネルギー開発では、韓国の技術を欲しがる国が多いのだとか。そのため、任期末といえども、今後を見据えて各国首脳が文大統領との会談を希望しているのだという。

 そこから、朝鮮日報の記事のタイトルにもなった「文大統領に会おうとする国が30か国以上列をなしている」という発言になったわけだが、どこの国が文大統領の訪問を求めているのか。具体的な国名については明かされていない。

日米中の首脳からは避けられ続け…

 また、韓国が重視するべき主要国はどうか、文大統領の訪問や会談を熱望しているか。

 文大統領は、昨年5月にワシントンを訪問してバイデン大統領と会談した。その後は、会談の機会がなく、昨年11月のG20サミットでも会談を望んだが実現していない。

 また、日本の菅政権には首脳会談を拒まれ、続く岸田政権からも色よい返事は得られていない。むしろ敬遠されているような。

 韓国が最も関係に神経を使わねばならない中国はと言えば、予定していた北京オリンピック開会式参加をキャンセル。どうやらこれも、首脳会談が実現困難になったからだと察せられる。

 また、同胞の北朝鮮との仲も、大統領就任直後の蜜月はどこへやら。

 昨年の国連総会で朝鮮戦争の終戦宣言を提案した時には、金恩正(キム・ジョンウン)総書記にはガン無視されている。

 30か国以上が列をなして訪問を待ちわびる大人気の大統領だが…、最も関係を重視せねばならない国々からは総スカンされて、その任期を終えそうな状況なのである。

青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、近著『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社、2021年)。

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