「我が国の安全管理は世界1」新法が27日から施行
昨年秋に韓国政府が「重大災害処罰法に関する法律の施行令」を公表している。
これを「重大災害処罰法」と略して検索すると、かなりの数ヒットする。最近話題のキーワード。
それが年明け早々に国会で可決され、いよいよ1月27日から施行されることになった。
この法律は、工場や建設現場などで死亡者1人以上、重傷者2人以上が発生すると重大災害と認定。
安全措置の義務に違反があった場合は、事業者や経営責任者に厳しい処罰を科すというものだ。50人以上が働く事業所が対象となり、外国企業にも適用される。
有罪判決が下れば1年以上の懲役、または10億ウォン(約9500万円)の罰金を支払わねばならない。
現場担当者だけではなく、経営者や発注先の企業家にまでが処罰対象になるという点では、世界に類を見ない法律だ。
法案可決後に「我が国の安全管理は世界1」と自画自賛する議員もいたというのだが。
しかし、この法案には、曖昧なところや問題点が多く、日韓の建設業界関係者は対策に頭を抱えているようである。
“後出しじゃんけん”で有罪認定
一番の問題点は、「直接現場にタッチしない経営者や企業家が、安全措置に関してどのような義務を果たせばいいのか?」「何をやらなかったら義務違反となるのか?」それが明確にされていないこと。
それについては、
「施行令を通じて明確にする」
韓国政府は、このように返答している。つまり、事故が起こってから、状況を見て罪の有無を判断しようというのである。
そんな後出しじゃんけんみたいなやり方で、刑務所に入れられてはたまらない。安全義務違反で罪に問うのなら、まずは、行うべき義務事項を明確にするのが順序だと思うのだが。
また、処罰対象が系列会社の代表者なのか、それとも、本社のオーナーにまで及ぶのか。そこのところもわからない。
労働者の過失で発生した事故にまで責任を問われることを恐れて、現場に監視カメラを設置する建設会社が増えたとか。
そんな設備投資が不可能な中小企業の53.7%が「義務事項遵守は不可能」と訴え、廃業を考える経営者も少なくないという。
国民感情で判決が左右される可能性あり!?
外国企業の経営者などは、事故で収監される可能性を避けるために、雇われ社長を立て帰国しようという動きも見られるようになった。
また、韓国内で事業を展開する日本企業は、特にこの法に対する警戒感が強い。
安全義務や処罰対象を曖昧なことで、それが恣意(しい)的に運用される可能性も多分にあるからだ。
韓国の司法が憲法よりも国民情緒を優先することは知られている。韓国民もそれを認めて「国民情緒法」という言葉をよく使う。
これは実在の法律ではない。司法の判断が法律や条約よりも、一部の市民団体や大衆世論に影響されることを揶揄(やゆ)したものだ。
適用範囲がかなり曖昧な重大災害処罰法には、国民情緒が入り込む余地が多分にある。
「反日は正義」と信じて疑わないお国柄なだけに、相手が「日本」となれば司法の判断が違ってきそうだ。そこから新たな日韓の外交問題が多発しそうな予感もあり…。
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、近著『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社、2021年)。