総人口5184万人(2020年)から3766万人(2070年)へ減少推算
総人口5184万人(2020年)から3766万人(2070年)へ減少推算
韓国の統計庁は、昨年12月、「将来人口推計:2020~2070年」を発表した。
それによると、韓国の総人口は2020年の5184万人をピークに減少に転じ、50年後の2070年には3766万人にまで落ち込むと推算されており、韓国民に衝撃を与えている。
文在寅(ムン・ジェイン)政権下で韓国の若者は、結婚や出産がしにくい状況に陥っており、人口減少は今後も続くと思われる。
人口をV字回復させるには、改めて「婚姻革命」を起こす必要がある。
2018年、韓国の合計特殊出生率1.0を切る
2021年末の推定総人口は約5175万人で、前年より約9万人減少した。
韓国では、2020年に死亡数が出生数を上回り、人口の自然減少が始まっていたが、海外からの流入人口が自然減少をカバーしていた。海外からの流入を含めた総人口が減少するのは1950年以来のことである。
人口減少の最大の原因は出生数の減少、すなわち少子化である。
人口関連指標の1つに「合計特殊出生率」がある。
これは1人の女性が一生の間に産む子供の数で、人口を維持するためには2.07以上であることが必要とされる。
韓国は1970年代初めまで、合計特殊出生率が4.0~6.0という、世界的にも高い数値を示していたが、その後下がり始め、1984年には2.0を下回った。
さらに文在寅政権下の2018年には、ついに1.0を切り0.98となったのである。
日本も少子化問題が深刻だが、日本の2018年の合計特殊出生率は1.42である。韓国の数字がいかに低いかがわかる。
朝鮮戦争後のベビーブーム。でも実は
ここで、韓国の過去の人口推移について振り返ってみよう。
韓国では、朝鮮戦争で100万人を越える犠牲者を出した。
休戦後の1955年頃から1960年代半ばまで、いわゆる戦後ベビーブームが起こり、人口が急増。その後も「漢江の奇跡」と呼ばれる経済成長が続き、人口も高い増加率を維持した。
実は、韓国はそれ以前にも人口急増を経験している。それは日本が朝鮮半島を統治した“日帝時代”である。
韓国でタブーとされる“日帝時代”の人口急増
韓国民族文化大百科事典によれば、日韓併合以前の朝鮮時代、人口は停滞していたが、日韓併合後、人口は増え始める。
1910年の朝鮮半島の人口は1313万人(総督府現住人口調査)で、1944年の人口は、2512万人(総督府国勢調査)である。
また、1910年の海外居住朝鮮人は20万人、1944年は350万人で、これを合わせると34年間で朝鮮人の人口は2倍以上に増えている。年平均3.3%の増加である。
これは明治維新(1868年)から終戦(1945年)までの日本の人口増加率が年平均1.5%にすぎないことを考えれば、極めて高いと言える。
韓国では、日本が朝鮮半島を統治していた時代、「日本によって独立運動が弾圧され、土地や米が収奪され、労働者が強制連行されるなど、朝鮮の人々が多大な経済的・人的損失を被った」と教えられている。
そのため、韓国では“日帝時代”の人口増加はタブーとされている。
日本の研究者たちは、近代医学の導入、衛生改善、食糧増産などにより死亡率が低下したことを指摘する。しかし、出生率についての分析は少ない。
朝鮮時代の奴婢が解放され「婚姻革命」が実現
人口統計を見ると、日本統治時代前半の出生率の上昇が著しいことがわかる。この原因は何だろうか。
人口学者、鬼頭宏は『人口から読む日本の歴史』(講談社学術文庫)で、江戸時代初期の人口爆発を婚姻革命によって説明している。
すなわち、16~17世紀に日本の農村に存在していた隷属農民が減少・消滅することで、「誰でも生涯に一度は結婚するのが当たり前」という、生涯独身率の低い「皆婚社会」が成立し、出生率が上昇したというのである。
実は、日韓併合の前の朝鮮時代末期にも、似たような状況が現出した。1894年に日本の影響下で行われた「甲午改革」における身分制度廃止・奴婢解放である。
朝鮮時代には、平民の下に奴婢という身分があり、隷属的な生活を強いられていた。甲午改革によって封建的身分制度が廃止され、人口の3割ともいわれる奴婢が解放された。
それまで人身売買の対象とされ、婚姻の自由もなかった奴婢たちは、自分の意志で結婚できるようになった。
この改革により、朝鮮は皆婚社会となり、その後の顕著な出生率の向上がもたらされたのである。
文政権下で婚姻数が減少し初婚年齢も上昇
話を現代韓国の状況に戻そう。
文在寅政権下で、出生率の低下が加速している。2018年に0.98だった合計特殊出生率は、2020年に0.84にまで下がった。
出生率低下の背景には、婚姻数の減少がある。
2011年に32.9万件あった結婚件数は、2020年には21.3万件にまで落ち込んでいる。2020年は新型コロナウイルスの影響もあり、婚姻数が前年に比べて10%も減少した。
初婚年齢の上昇も顕著である。
1990年の初婚年齢は、男性が27.8歳、女性が24.8歳であったものが、2020年には、男性33.2歳、女性30.8歳にまで上がっている。
では、韓国の若者たちは、なぜ結婚をしたがらないのだろうか。
文大統領は、就任後の政権運営について自画自賛を繰り返しているが、実際には、経済状態は悪化している。
名目的な失業率が下がる一方、若者向けの良質な雇用は減っており、多くの若者が不安定な非正規雇用に甘んじている。
また、都市部の不動産価格は上昇の一途をたどり、多くの若者がマイホームを持つ夢を諦めつつある。
男性が結婚する時、住居を用意するのが普通だが、それが難しくなっているのが実情だ。
韓国の次期大統領の最優先課題は新たな婚姻革命
こうした状況の中で、結婚をしない人の数が増えており、30代の人々の未婚比率は女性で33.6%、男性で50.8%に達するという(2020年)。
“日帝時代”に成立した皆婚社会が、今まさに崩れようとしているのである。
さらなる少子化の進行を抑えるためには、良質の雇用を創出し、不動産価格を抑えてマイホームを手に入れやすくし、若者が結婚したいと思える社会、明るい未来が描ける社会を作る必要がある。
次期大統領の最優先課題は、新たな婚姻革命の実現なのではないだろうか。
犬鍋 浩(いぬなべ ひろし)
1961年東京生まれ。1996年~2007年、韓国ソウルに居住。帰国後も市井のコリアンウォッチャーとして自身のブログで発信を続けている。
犬鍋のヨロマル漫談