平壌から離れた中朝国境の山岳地帯
昨年11月16日に北朝鮮の朝鮮中央通信は、金正恩(キム・ジョンウン)総書記が、両江道三池淵市を視察したことを報じた。
10月に兵器展覧会に出席して以来、公の場に姿を現したのは約1か月ぶりだった。それだけに韓国や日本でも注目されている。
ここで気になったのが、金正恩氏が訪問した三池淵市という場所。地図で見ると首都・平壌から遠く離れた中朝国境の険しい山岳地帯、いかにも辺境といった感じなのだが…。
現在は、この地で大規模な都市建設事業が行われており、訪問の目的も工事の実態を視察して現地で指導するためだったという。
今回の訪問には、内閣総理や党中央委員会部長など指導層もそろって同行している。
また、金正恩氏にとっては平壌を離れて地方を訪れるのは約1年ぶりのこと。そこから察するに、北朝鮮はかなりこの地を重視しているようである。
北朝鮮が最も重視する革命聖地だった
三池淵市の場所をいま一度地図で見てみる。市の北西20~30キロ・メートルのところには、中朝国境にそびえる白頭山がある。
この山は、かつて抗日戦を繰り広げた朝鮮人民革命軍の根拠地、故金正日(キム・ジョンイル)総書記の出生地とされる革命聖地。三池淵は聖なる山の麓にあった。
三池淵で再開発工事が始まったのは2016年のこと。当時はまだ数軒の寂れた民家が点在するだけの寒村だったという。そんな場所で国力を注ぎ込む一大プロジェクトが進行してゆく。
「山間文化都市の標準、社会主義の理想郷」をスローガンに道路やインフラを整備し、第2段階の工事が完了したのが2019年末。
寒村は現代的な街並みに変貌した。この時にも金正恩氏はこの地を視察して、三池淵郡を三池淵市に昇格させている。
第2段階工事完了後もさらなる発展を目指す第3段階の工事が着々と進められた。
昨年9月にはそれもほぼ完了。住宅地には入居者が続々と入るようになったという。
ついに11月になると、金正恩氏は、北朝鮮指導部を伴って同市を再び訪問。完成した「社会主義の理想郷」を視察したというわけだ。
「社会主義の理想郷」ってどんなところ?
北朝鮮の体外サイト「わが民族同士」の記事によれば…、市街地中心には、故金正日氏の巨大な銅像が、街の象徴としてそびえる。
すでに数千世帯にもなる住宅群も完成している。北朝鮮の水準からするとハイクォリティの設備が整えられているようだ。
また、理想郷としての面目を保つために、外観もかなり凝って造形美と芸術性が実現されているという。
中心街には、伝統建築の民族旅館や飲食店など、観光客が喜びそうな施設も盛りだくさん。白頭山麓の大自然を背景に建造物群。いかにもインスト映えしそうな眺めだ。確かに「理想郷」ではありそうだ。
経済封鎖やコロナ禍による苦境にもかかわらず、予定通りにこの大工事を完了させたというのがすごい。
何か執念のようなものを感じてしまうのだが…。
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、近著『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社、2021年)。