厚生年金加入で強制労働が証明?
韓国で昨年1月に元徴用工やその遺族らが賠償を求めて訴訟を起こしている。
これを支援する市民団体が、原告が日本で強制労働をさせられた確かな証拠を発見したと発表。韓国の新聞各紙もこれを報じている。
原告は1944年から1945年にかけて、三菱重工名古屋工場で強制労働をさせられたと訴えていた。が、日本政府は「記録がない」として責任を回避している。
ところが、最近になって原告は日本で厚生年金に加入していた記録を発見する。これにより原告が日本で働いていたことが証明され、
「もはや言い逃れはできない」
と、いうことだが…。
しかし、彼らが日本で働いていたことは、誰も否定していない。証拠がないのは、あくまで「強制労働」についてのことだろう。なんだかピントがずれてる感が否めない。
厚生年金制度完備の奴隷労働って…
今年6月、韓国の支援団体が日本年金機構に原告の厚生年金加入記録を照会したが、この時には、機構側も記録がないと返答している。
しかし、その後に原告の1人が年金番号を保管していることがわかり、支援団体は、日本の本村伸子衆議院議員に協力を要請。本村議員が厚生労働省に再調査させたことにより「被保険者記録回復基準事務取扱要領」に基づき、原告が厚生年金に11か月間加入していたことが認められたという。
これで少なくとも11か月間は、原告が日本の工場で働いていたことは証明しされたわけだ。
しかし、ここで考えてみてほしい。韓国が官民あげて徴用工問題で日本を糾弾し続けるのは、それが過酷な奴隷労働だったからではないか。
「徴用」とは、戦時などに国民を強制的に動員して一定の仕事に就かせることで、そこに「強制」があることは否めない。
日本の一部だった朝鮮半島でも、1944年9月から国民徴用令に基づく労務動員が開始されている。第2次世界大戦では、欧米各国でも同様の徴用が行われた。
労働に見合う対価が与えられる限りは合法的な措置。それは当時の世界的な常識でもある。
年金脱退手当「99円」に韓国民が激怒
元徴用工が、厚生年金に加入していたという事実が確認されたことは、むしろ、徴用の合法性が証明されたことになりはしないか。
現代の日本で労働人口の4割にもなるという非正規雇用者。その多くは、厚生年金に加入できず老後の生活に不安を抱えている。
また、韓国では、いまだ厚生年金制度はなく、老後は、わずかな公的年金に頼るしかない状況。
厚生年金への加入が認められた徴用工の待遇は、その点だけでもかなりましだと思うのだが。
ちなみに、厚生年金の受給資格が得られる加入期間に満たない者には、年金脱退手当が与えられる。
韓国側では原告の脱退手当を「1000ウォン(99円)」と予測して、その額の少なさにも怒っているという。
しかし、加入期間はわずか11か月、その程度の加入期間だと国民年金なら1円ももらえない。日本人の年金脱退者と比較しても差別はないはずなのだが…。
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、近著『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社、2021年)。