日本大使館前に設置された第1号の少女像
ちょうど10年前の2011年12月14日、ソウルの在韓国日本大使館前に、1つの銅像が設置された。
日本軍慰安婦被害者を象徴する「平和の少女像」(以下、少女像)である。
その後の10年間に同じような少女像が、韓国内、さらには海外に数多く設置されてきた。
ところが、最近になって、慰安婦像を設置した支援団体や像を製作した彫刻家に注がれる視線が厳しさを増している。その理由を探る。
少女像を制作したのは、韓国の彫刻家夫妻、キム・ウンソン氏とキム・ソギョン氏。2人は最近、聯合ニュースのインタビューで次のように語っている。
「10年前、初めて少女像が設置された時、被害者のハルモニ(おばあさん)をはじめ、国民が歓呼したことを思い出す。…しかし、最近、歴史修正主義者と一部の右翼がハルモニたちを侮辱するのを見ると悲しくなる」
少女像第1号は、日本軍慰安婦問題に抗議して日本大使館前で毎週開催されていた「水曜集会」が1000回目を迎えるのに合わせ、当時の挺対協の依頼で制作された。
挺対協は、正式名称を韓国挺身隊問題対策協議会といい、慰安婦関連の韓国最大の支援団体。現在は「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯」(正義連)として活動している。
少女像が韓国の誤った慰安婦認識を定着させる
彫刻家夫妻は、少女像について次のように説明している(韓国・嶺南日報、2014年9月19日付)。
「少女像は、13歳、14歳という花のような年頃に、日本軍によって強制連行され、ひどい苦痛を味わった幼い少女たちの悲しい人生を形象化したもの」。
韓服を着た少女は裸足で、ひざの上に置かれた両手は、固く握りしめられている。乱れた短髪は、おさげにしていた髪を日本兵に切られたことを暗示する。その目は前方を凝視し、過去の行いを反省しないことを?責するかのように、日本大使館の建物に向けられている。少女の隣にある空いた椅子は、亡くなった被害者慰安婦のためのものだそうだ。
少女像は、韓国で広く信じられている「日本軍に強制連行され、性奴隷にされた20万人の少女」というイメージに合致している。
驚くべきことに慰安婦=少女という認識は、韓国の新聞の誤報から生まれた。
慰安婦問題が騒がれ始めた1992年1月、韓国の新聞は「12歳の少女までが女子挺身隊に動員され、慰安婦にされた」と報道し、当時訪韓中だった宮沢喜一首相を謝罪に追い込んだ。
女子挺身隊とは、工場で働く勤労動員であって、慰安婦とはまったく別物であるが、当時の韓国では、この2つが混同されていた。
後にこれが誤報であることが判明したが、韓国では訂正記事が載ることもなく、韓国の人々の記憶に深く刻まれてしまった。
2015年の日韓合意を境に少女像急増
2011年、少女像が日本大使館前に設置された時、日本政府は、外国公館前での侮辱行為を禁じたウィーン条約に違反しているとして撤去を求めたが、実際には撤去どころか、似たような像が国内外に次々に作られていった。
少女像の制作設置に拍車がかかったのは、2015年12月末の「慰安婦問題に関する日韓合意」以降である。
慰安婦日韓合意とは、朴槿恵(パク・クネ)政権当時の日韓両国の外相(日本側は岸田文雄現首相)が、「日韓間の慰安婦問題が最終的かつ不可逆的に解決されたこと」を確認したもの。日本政府が10億円を拠出して財団を設立し、韓国政府は慰安婦像の移転に努力することが謳われていた。
当時の挺対協は、被害者に事前説明がなかったとして激しく反発した。
朴政権の後の文在寅(ムン・ジェイン)政権は、支援団体の圧力に屈し、合意を棚上げして財団も解散した。
その結果、支援団体の反発のトーンが上がるのに歩調を合わせるかのように、少女像が急増していったのである。
「元慰安婦を利用して正義連が金儲け」李容洙さんの告発
正義連によれば、2021年10月現在、韓国内に144体、海外に16体(撤去されたものを除く)、合計で160体の少女像があるそうだ。うち98体がキム・ウンソン、キム・ソギョン夫妻の作品である。
しかし、元慰安婦被害者支援活動を取り巻く状況は、2020年5月を境に一変した。
そのきっかけは、元慰安婦の李容洙(イ・ヨンス)さんによる支援団体批判である。
李容洙さんは、「正義連(旧挺対協)が元慰安婦を利用して莫大な補助金や寄付金を得ていたのにその金を慰安婦のために使っていない」という爆弾発言をして、韓国民を驚かせた。
わずか3%未満しか使われず。次々に明らかになる支援団体の不正
わずか3%未満しか使われず。次々に明らかになる支援団体の不正
正義連は、2017年から2019年の3年間に公的機関からの補助金と国民からの寄付金、合わせて約3億1200万円を得たが、慰安婦のために使ったのは、その3%にも満たなかったとされる。
その後、正義連の理事長だった現国会議員である尹美香(ユン・ミヒャン)氏は、資金を個人的に流用したとして、横領や詐欺の疑いで起訴された。
支援団体に対する追及は、もう1つの元慰安婦支援団体であるナヌムの家にも飛び火した。
ナヌムの家は、大韓仏教曹渓宗が運営し、元慰安婦に共同生活を送る施設を提供してきた。
2020年8月の調査によれば、ナヌムの家が2015年から2019年に集めた後援金、寄付金は約8億5000万円。このうち元慰安婦のために使われたのは2.3%、約2000万円にすぎなかったという。
“人権派”彫刻家夫妻の「別の顔」
一方、少女像の作者であるキム・ウンソン、キム・ソギョン夫妻に関しても、人権派彫刻家というイメージとは「別の顔」が明らかになっている。
朝鮮日報(2020年5月30日)が報じたところによれば、同年3月に江原道太白市は、芸術家のチャン・ユンシル氏に慰安婦像の制作を依頼した。
像が完成し、まもなく公開という時に、キム・ウンソン、キム・ソギョン夫妻から「著作権違反なので廃棄処分せよ」というメールが送られてきた。そのため、完成した像は、お蔵入りになってしまったそうだ。
同様のケースは、他の自治体でも起こっていて、2016年に全羅南道羅州市、2017年には光州市で、夫妻から同様の抗議があった。
各自治体が、夫妻以外の作家に像の制作を依頼する理由の1つは、夫妻の制作費が割高だからだ。
夫妻のこのような行動には、慰安婦像制作で得られる利益を独り占めしようとする意図が透けて見える。
どうなる?岐路に立たされる慰安婦ビジネス
朝鮮日報は、夫妻がそれまでに制作した95体の少女像の売り上げが約2億7000万円に上り、材料費などを差し引いても約8700万円の利益を上げたと推算している。
なお、夫のキム・ウンソン氏は、正義連との関わりが深く、2016年から正義連の理事に名を連ねている。
このように見てくると、元慰安婦支援団体の正義連と彫刻家夫妻は、“慰安婦問題解決のため”という口実のもと、二人三脚で「慰安婦ビジネス」を展開してきたという構図が浮かび上がってくる。
しかし、冒頭のインタビューにある通り、支援団体の活動に対しては、韓国内からも疑問の声が上がっており、今、慰安婦ビジネスは岐路に立たされている。
犬鍋 浩(いぬなべ ひろし)
1961年東京生まれ。1996年~2007年、韓国ソウルに居住。帰国後も市井のコリアンウォッチャーとして自身のブログで発信を続けている。
犬鍋のヨロマル漫談