だるまさんが転んだ= ムクゲの花が咲きました?
米動画サイト大手、ネットフリックスを通じて世界中でヒットした韓国ドラマ「イカゲーム」は、今も高い人気を誇っている。このドラマに出てくる子供の遊びも話題だ。多くが日本由来だとする見方がある。
たとえば、冒頭部分に出てくるゲーム「ムクゲの花が咲きました」は、日本の「だるまさんが転んだ」によく似ている。
日本経済新聞は、10月29日付のソウル発のコラムで、日本と「ルールも旋律もまったく同じ。違うのは歌詞だけだ」と書いた。
これに対して、韓国を代表する通信社、聯合ニュースが「まったく事実ではない」と全面否定し、検証結果を公表した。果たしてどちらが正しいのか。
「ドラマのゲームの数々は日本由来」と日経新聞
聯合ニュースの検証結果は、ソウル大学が国内のメディア各社と協力して定期的に実施している「ファクトチェック」のページで11月に発表された。大手ポータルサイト・ネイバーで誰でも見ることができる。
大統領や有力政治家の発言や、ネットで流布する噂などを「事実」「だいたい事実」「半分は事実」「だいたい事実ではない」「まったく事実ではない」の5段階で検証しており、信頼性が高いとされている。
今回チェックの対象となったのは、日経のソウル支局長が書いた「韓国ドラマ『イカゲーム』が映す日本の残影」という大型コラムだ。「巨額の賞金目当てに参加者が死闘を演じるゲームの数々は、日本由来の子供の遊び」と断じていた。
これに対して韓国では、論議が巻き起こった。子供の遊びが日本と似ているということさえ知らない人がほとんどだからだ。
確かに戦前、日本が朝鮮半島を統治していた時代、多くの日本人が住み、日本文化が伝えられた。今も生活レベルの日本語が使われている。
「証明する資料ない」と聯合ニュースは反論
聯合ニュースは、日経コラムが引用した韓国の博物館館長に改めてインタビューしたほか、韓国民俗学会が、子供の遊びについて調査した報告書や韓国教育省関係者へのインタビューなど5つの資料を提示している。
日経はムクゲの花ゲームについて、「子どもたちが日本語で遊んでいたのを見た当時の独立運動家が、同じ旋律で歌える母国語の『ムクゲの花が咲きました』に変えてみたら、と子供たちに提案したのが広まった」と書いたが、「証明する資料が見つからなかった」と反論した。
また、ムクゲの花に近いゲームは、世界中にあり、日本国内でもだるまさんが転んだは、西洋文化の影響で生まれたとの見方があると指摘した。
韓国民俗学会の報告書によれば、ムクゲの花に似た遊びは、19世紀に確認されているという。つまり、日本の統治時代(1910年~1945年)以前からあり、それが変化して現在の形になったというのだ。
さらに教育省関係者は、各国では遊びに類似性あり相互に影響を与えるものだが、だるまさんが転んだについて、「日本にのみ存在する固有の遊びだとは見にくい」と話している。
日経は反論するか?
ちなみに日経のコラムは、ドラマの内容を「ものまねだ」などと皮肉るものではなく、隣国の文化や言葉は、入り交じるものだということだった。
ところがファクトチェックは、だるまさんが日本だけのものか、という点にだけ問題にしており、かみ合っていない。
子供の遊びの歴史や由来を突き詰めるのは、しょせん無理なことであろう。
ただ、こういう「日本をまねた」という記事に敏感に反応するところが、韓国らしくもある。
さて、コラムを「事実無根」とされた日経。この判定に反論するだろうか。
五味 洋治(ごみ ようじ)
1958年長野県生まれ。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年、韓国延世大学語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大に客員研究員として在籍。現在、論説委員。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないか』(創元社、2017年)、『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋、2018年)、『新型コロナ感染爆発と隠された中国の罪』(宝島社、2020年・高橋洋一らと共著)など、近著『金正恩が表舞台から消える日: 北朝鮮 水面下の権力闘争』(平凡社、2021年)。
@speed011