軍隊内のいじめの実態をリアルに描くドラマ
ネットフリックスの韓国ドラマ「D.P. -脱走兵追跡官-」が、今年8月から配信されて話題になっている。
これは脱走兵を逮捕するために、私服で街を探しまわる憲兵隊追跡官の物語なのだが、2014年に韓国陸軍で実際に起きた兵士による銃乱射事件をモデルにしたもので、軍隊内でのいじめの実態もリアルに描かれているという。
韓国には徴兵制度があり、男性たちは否応なく兵役を体験することになる。また、近い将来には、女性も徴兵が実施されることが確実視されている。つまり、軍隊内のいじめは韓国人全員が他人事では済まされない問題だ。
今も新兵には、凄惨(せいさん)ないじめが行われているという話もよく聞かれるだけに、兵役前の若者たちにとっては、ドラマの内容は気にかかるところだろう。
韓国社会を震撼させた陸軍の食糞事件
昔から韓国のテレビや新聞では、軍隊内のいじめについてよく報道されている。
中でも2005年1月に忠清南道の韓国陸軍訓練所で起きた食糞事件は、当時の韓国社会に大きな衝撃が走った。
トイレの水を流さない者がいたことに怒った先輩兵士が、新兵192人を集合させ、強制的に人糞を指につけて食べさせたという。内部告発によって事件が発覚し、国防省が謝罪会見を開く事態に発展した。
ちなみに、70年代の韓国陸軍では、糞尿を満たしたドラム缶を新兵の前に並べ、これで顔を洗わせる「人糞洗顔訓練」が入隊の儀式として行われていたという。
その模様を撮影した写真が、インターネットで拡散したこともあった。その伝統は、今も残り、秘密裏に糞尿を使ったいじめが行われていたのかもしれない。
この他にもチューブ入りの歯磨き粉1本を食べさせたり、痰やフケを入れた飯を食わされるなど、様々な新兵いじめが存在する。また、海兵隊では、先輩兵士が新兵に「アッキバリ」と呼ばれる強制飲食をさせるのが伝統行事になっているとか。
配給のチョコパイを2日間で180個も食べさせられたとか、長期間の強制飲食で体重が20キロ・グラムも増えたという話を聞く。
当然、ドラマさながらにいじめに耐え切れず脱走する者は多い。2015年に軍事法廷院が提出した資料によれば、5年間で2559人の兵士が脱走しており、脱走理由の70%以上が「服務に嫌気が差した」となっているのだが…。
いじめは、なぜ繰り返されるのか?
かつての日本軍もまた、兵営内で凄惨ないじめが行われていた。
往復ビンタで済ませてくれる古参兵は、かなり優しい部類。鋲(びょう)を打った靴で強打されて顔に生涯残る傷がついたり、また、海軍では「バッター」「精神注入棒」と呼ばれる硬い木材のフルスイングで尻を打ち据えられ、障害が残ってしまうことも珍しくなかった。いじめに耐えかねた自殺も日常惨事。新兵が夜中に長便所していたりすると誰もが自殺を疑う。
あるいは、韓国軍のいじめの体質は、日本軍から由来したものか。
韓国軍創設時の士官には、日本の軍学校で学んだ者たちが多くいた。軍の組織も日本軍に倣ったものだけに、悪しき体質まで受け継いでしまった可能性は多分にある。
また、日本社会と韓国社会は似通ったところがある。
同調圧力が強く組織内では空気を読んで言動に注意せねば、少しでも浮いた行動をしているとすぐに目をつけられ、異端者として無視されたり、いじめられたり。軍隊に限らず、学校や会社内でのいじめも日韓ともに社会問題になったりもしている。
そう考えると、日本人も韓国軍でのいじめ問題を他人事とばかり思ってもいられない。
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、近著『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社、2021年)。