TSMCの新工場建設に日本より注目する韓国
世界最大手の半導体メーカーである台湾のTSMCが、ソニーと提携して熊本県内に新工場を建設することが報じられた。8000億円規模の大型投資であり、総事業費の半分を日本政府が出資する方向で調整中だという。
半導体は現代産業や軍事に欠かせぬ戦略物資。世界的に不足状況が続く中で、台湾と日本がその確保に向けて結束を強めようとしている。
この話題は韓国各紙も記事として取り上げている。むしろ、日本よりも注目度は高いようだ。韓国にはTSMCと世界シェアを争うサムスン電子やSKハイニクスなどの企業があり、輸出の稼ぎ頭でもある基幹産業だ。それだけに他国の動向が気になるのは当然だろう。
日本や台湾が相手となると、それがなおのこと気にかかる。
台湾人の嫌韓ぶりに困惑する韓国人
韓国人が台湾に抱く思いは複雑。同じ日本の植民地支配を受けたということで、“親近感”を持つ韓国人は昔から多い。冷戦時代には、お互い「血盟」「友邦」などと呼び合って、良好な関係を築いていた。しかし、1992年に韓国が中国と国交を結び台湾と断交したあたりから、その仲が怪しくなってくる。
2000年代になってよく行われる他国に対する意識調査で、台湾人が一番嫌いな国の第1位には、必ずと言っていいほど韓国の名が挙がる。
多くの台湾人は、断交の経緯について「韓国は裏切った」と怒る。同じ断交するにしても、そのやり方が問題だった。
韓国政府はギリギリまで「台湾とは断交しない」と公言し続け、その見返りに当時の国際市場では売り物にならなかった韓国車を大量に台湾に売りつけた。国交継続を餌にうまい汁を吸ったあげく、突如として断交を通告したのである。
しかも断交を宣言したその日のうちに、台北にあった韓国大使館の保有資産を中国名義に変更してしまうという手際の良さ。「我が国の見事な作戦」と韓国政府は自画自賛したが、台湾からすれば、それは卑怯な裏切行為でしかない。
しかし、多くの韓国人はこの経緯を知らない。だから、「多くの国々が韓国と同様に中国政府の意向に従って台湾と断交したのになぜ韓国だけが嫌われる?」と、困惑している韓国人は多いという。
慰安婦問題や徴用工問題にも通じる韓国人の気質
慰安婦問題や徴用工問題にも通じる韓国人の気質
韓国と台湾が断交した経緯は、教科書に詳しく載っているわけではない。しかし、インターネットで少し調べれば、すぐに知ることはできるはずだ。自国の歴史以外に関心の薄い韓国人気質は、そこのところを知ろうとはしない。
台湾の嫌韓感情も「韓国の発展に対するひがみだ」などと、都合よく解釈したりもする。日本との慰安婦問題や徴用工問題とよく似た感じではある。
歴史の真実を知ることよりも、「今の立場を守るために歴史をどう解釈すればよいのか?」
韓国歴史学は、そこに重きが置かれているようにも思える。彼らは歴史を学問ではなく、政治と捉えているのかもしれない。
「歴史を忘れた民族」とは誰なのか?
また、韓国人からすると、近年の台湾人の親日ぶりが理解に苦しむようではある。「なぜ、同じ植民地支配を受けながら、彼らは日本人を憎まないのだろうか?」と、不思議でしょうがない。
台湾では公の機関や学校でも、日本が植民地統治時代を歴史の研究が進み、植民地統治の良い面も悪い面も正しく検証されてもいる。学校の歴史教育でもそれが紹介され、子供たちも日本の植民地統治を正しく学ぶ。
その結果、台湾人は、日本が戦略的パートナーとして信頼できる存在と判断して、今回の半導体生産における協力関係の強化に踏み切ったのだろう。
歴史から学んだことが、日本との関係を構築するにも大きく役立っていた。
自分たちに都合よく修正された歴史を教えていては、それは無理だろう。むしろ、自国に向けられる他国の批判や嫌悪感の理由を理解することができず、的外れな批判を繰り返して他国に責任転嫁して信頼関係にひびを入れるだけ。それが様々な不利益となって返ってくる。
「歴史を忘れた民族に未来はない」
とは、韓国の独立運動家・申采浩が残した名言だが、サッカー日韓戦の横断幕にもこの文言が刻まれ、現代の韓国人が、日本を糾弾する時に好んで用いる言葉にもなっている。しかし、この言葉について韓国人は、今一度よく考えてみるべきかと…。
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、近著『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社、2021年)。