北朝鮮はインパクトある巨大建造物の宝庫
日本と中国が高速鉄道で熾烈(しれつ)な受注合戦を繰り広げ、韓国もまた東南アジアや中東などで原発やダム建設の受注を獲得している。
近年は世界各地で日中韓の建設業の旺盛な活動が目につく。北朝鮮の建設産業もまた、「とある分野」においては世界有数の技術とシェアを誇っている。
北朝鮮の建設産業が得意とするとある分野とは、巨大な銅像やモニュメントの建設だ。万寿台にある高さ21メートルの金日成・金正像。大同江河畔にそびえる170メートルの主体思想塔。平壌-開城高速道路上にある巨大アーチの祖国統一3大憲章記念塔等々。北朝鮮国内は強烈なインパクトを放つ巨大建造物の宝庫だ。
こういった類の建造物に関しては、世界でも有数の経験と技術を有している。国連の経済制裁が発動される以前には、各国各地で銅像やモニュメントの建設を受注し、北朝鮮レストランと並ぶ外貨の稼ぎ頭だったという。
技術と経験、価格で太刀打ちできる国はない
たとえば、アフリカのセネガルにある49メートルの「アフリカ・ルネッサンスの像」。自由の女神より3メートルほど高く、造形美も素晴らしくインパクトがある。各国の建設専門家の間でも、その技術の高さが評価されているとか。
この像は2006年にセネガル大統領アブドゥライェ・ワッド氏の発案で「西アフリカ観光の目玉となる巨大な公共記念塔を建設する」という事業計画が立ち上がり、これを北朝鮮国営の万寿台海外開発会社が受注したものだ。相場の半額以下という破格の条件だった。
この会社は、北朝鮮国内で数々の巨大建築を手がけた万寿台創作社の海外事業部門であり、他にもボツワナ、ナミビア、エチオピア、カンボジア、シリアなどアフリカやアジアの諸国で多くの像やモニュメントを建設して外貨を稼ぎまくっている。
独裁国家や民族問題で分裂危機にある国は、国家の統合や国の威信を示すような象徴が必要になるものだ。巨大建造物を発注する国々には、それぞれ悩ましい事情がある。北朝鮮も同じ独裁国家なだけに事情をよく心得てビジネスに結びつけているのかもしれない。日本や韓国のように民主主義の発展した国では、やはり、そのあたりが疎い。
「スターリン様式」の数少ない継承者
「スターリン様式」の数少ない継承者
さて、昔から社会主義の国々は、銅像やモニュメントを好んで建てる傾向がある。特にスターリンの独裁政権下だった頃のソ連とその同盟国では、巨大な建造物や銅像が国中のいたる場所に建設された。社会主義革命の成功をたたえることを目的としたもので、「スターリン様式」と呼ばれるスタイルも確立されている。
ベルリンの壁が崩壊した後は、そういった権威主義が疎まれるようになったのだが、北朝鮮はその数少ない継承者と言えるだろう。
どこの国でも求められるものではなく、鉄道やダムほどの需要は見込めない。かなりニッチな分野ではあるが、技術と価格で北朝鮮が完全に一歩飛び抜けている。これにはインフラ建設でしのぎを削る日中韓の建設会社も太刀打ちできそうにない。
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、近著『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社、2021年)。