洪水被害などにより食糧事情が悪化傾向
「北朝鮮では今秋、例年より農作物の収穫量が減少する可能性がある」
米国の研究機関・戦略国際問題研究所(CSIS)が北朝鮮の穀物生産に関するレポート(10月4日公表 https://beyondparallel.csis.org/assessing-fall-2021-agricultural-conditions-in-north-korea/)の中で指摘した。
CSISレポートでは、衛星データから農作物の状態を予測する「正規化植生指標」(NDVI)など、リモートセンシング分析を用いて北朝鮮の7月初旬~8月中旬までの作況(農作物の出来具合)を測定。各地域の作物の状態を、良好(GOOD)、普通(FAIR)、不良(POOR)、非常に悪い(BAD)の4段階で分析した結果、一部の地域で作況が非常に悪化しており、「収穫量減少につながる可能性がある」という結論に至っている。
8月の農作物の状態は平均未満
レポートによると、主要穀倉地帯(黄海北道、黄海南道、平安北道、平安南道、平壌)のうち、黄海南道や平壌で農作物の状態に改善が見られるなど7月の作況は比較的良好であったが、収穫に影響する重要な8月の時期に作況が悪化している。
また、その他の慈江道、江原道、羅先、両江道の各地域でも、農地の60%以上がこの期間中に不良もしくは非常に悪い状態にあった。
結論として、今年7月から8月までの北朝鮮の農作物の状態は、「平均(average)または豊作(good harvest)に満たない水準であった」とレポートはまとめている。国連食糧農業機関(FAO)は7月初旬に「今年4月以降は気象条件が全体的に良好で、植生条件も平均以上」と評価していたが、その後状況が悪化したものと推測される。
減少と予測される今秋の収穫量
CSISレポートは分析の結果、「8月中旬までに農作物の状態が悪化しており、最近の北東部地域の洪水と相まって、今秋の収穫量は減少すると予測される」という結論を出している。
また、北朝鮮の食糧事情については、「飢饉の危機はまだ発生していない」としつつ、昨年の収穫量低下や、今年の農地および穀物輸送インフラへの洪水被害などの影響から、食糧事情が悪化傾向にあると指摘。特に元々貧弱な鉄道網が洪水被害を受けたことで、北東部地域の住民への食糧供給が困難になっている可能性があると言及した。
北朝鮮で本格化する秋の収穫
北朝鮮では9月下旬から秋の収穫の時期となっており、農業で成果をもたらすことを呼びかけるポスターも作成されている(9月25日付・労働新聞)。北朝鮮メディアは、連日のように農業について報じ、「米で社会主義を強硬に守る」(10月4日付・労働新聞)と訴えるなど、農業目標の達成に向けて人民に一致団結を求めている。
今年の穀物の出来具合についての報道はないが、食糧事情回復に向けてより一層、秋の収穫に力を入れていることがわかる。
八島 有佑
@yashiima