「拉致問題は解決済み」との主張繰り返す
北朝鮮が10月4日に就任した岸田文雄首相に初めて言及した。
北朝鮮外務省は7日、公式サイトに「慎重な言動が必要」と題した談話で、同省日本研究所の李炳徳(リ・ビョンドク)研究員の名義となっている。李炳徳氏は昨年9月に菅政権発足時にも談話を発表するなど、外務省の対日談話では恒例の人物となっている。
今回の談話は、岸田首相が就任後に各国首脳とのオンライン会談で拉致問題を提起していることに反発したもので、「拉致問題は解決済み」と従来からの主張を繰り返した。
「安倍路線」踏襲なら破滅的な敗北と警告
談話で李炳徳氏は、当時首相であった小泉純一郎首相の平壌訪問(2002年9月、04年5月)を契機にして、「拉致問題はすでにすべて解決され、完全に終わった問題」だと主張。このことは、過去の日朝政府間協議で繰り返し日本側に「真剣に説明してきた」とも述べた。
さらに、岸田首相が過去に5年間、外相を務めていたことにも触れ、「私たちの原則的立場を知らないはずがない」と指摘。それにもかかわらず岸田首相が拉致問題を提起することについて、「その真意を疑わざるを得ない」と伝えた。
李炳徳氏は自民党総裁選前の9月23日や25日にも談話を発表。安倍晋三元首相や菅義偉前首相について、「我々の誠意と努力ですべて解決された拉致問題を復活させ、政治目的に利用してきた」と非難した。加えて、もし次期首相が「安倍路線」を踏襲するならば、日本は「破滅的な敗北」に直面するとも警告していた。
日本に過去清算を求める
さて、李炳徳氏は拉致問題を解決済みとした上で、「改めて強調するなら」と日本に過去清算を訴えた。
日朝関係の問題で基本となるのは、「日本が、強制連行や大虐殺など人道に対する罪をはじめ、私たち朝鮮民族に与えた計り知れない人的・物的・精神的被害に対して、徹底した謝罪と賠償をすること」であると指摘。「行動すべきは日本」との主張だ。
その上で、李炳徳氏は「今のように最初のボタンからかけ間違えるなら、朝日関係はさらに濃い暗雲の中に陥るであろう」として、「日本の首相は朝日関係の問題と関連した言動を慎重に行う必要がある」と談話をまとめている。
日朝間でかみ合わない対話条件
北朝鮮の原則的な立場は、拉致問題を解決済みとするものだ。そのため、日本が拉致問題解決を訴えるたびに繰り返し反発してきた。
また、北朝鮮は対話の条件として、1.朝鮮学校への差別是正を含む在日朝鮮人への対応改善。2.政府独自制裁など対北朝鮮敵視政策の撤回。3.過去清算(植民地支配による人的・物的被害等)などをあげているが、日本側は前提条件を設けない「無条件対話」を表明している。
このあたりの認識差を、李炳徳氏は「ボタンのかけ違い」と指摘しているのだろう。ただ、まだ新しく誕生したばかりの岸田政権を様子見しているのか、今回の談話では、岸田首相を強く非難するものではなかった。北朝鮮としては、従来からの主張を繰り返しながら、新政権の出方を待っているものとみられる。
八島 有佑
@yashiima