「それは事実ではない」ルーマニアの報道を否定
今年8月、ルーマニア政府が人道的観点からモデルナ製新型コロナウイルスワクチン45万回分を韓国に無償供与することを承認したと、同国の国営通信が発表している。
韓国のワクチンの供給不足は、これまでにも国内外で多く報道されてきた。一時は経済開発機構(OECD)加盟国38か国で接種率最下位になるという屈辱を味わったこともある。ワクチン確保に失敗した文在寅(ムン・ジェイン)政権には、国民の批判が集まり政権支持率にも影響を及ぼした。そんな状況だけに、この申し出には感謝するべきところだと思うのだが…、どうやら、韓国政府はそう思っていないようだ。
「それは事実ではない」
と、韓国外交部(外務省相当)はすぐにこれを否定。無償供与ではなく、「ワクチンスワップ」として協議が進んでいることを強調した。むしろ、不快に感じているようにも見えてしまう。
ワクチンをもらいながら韓国のプライドを保つ妙案か!?
今春に文在寅大統領が訪米した頃から、韓国政府はワクチンスワップを盛んに提唱するようになった。ワクチンには使用期限があり、在庫を長く放置すれば廃棄処分となることは避けられない。それを防ぐために、ワクチンが不足する他国に融通し、自国が不足した頃に返してもらうというものだが。これなら貸した方も助かり、韓国のプライドも保たれる。政府も国民も「一流国家」へのこだわりが強いだけに、一方的に援助されるということは避けたいところだろう。
文大統領はバイデン米大統領との会談の際にも、ワクチンスワップを要請している。が、この時は「今はワクチンに余裕がない」と米国側から拒絶された。その後、7月にイスラエル政府から使用期限が迫ったファイザー製ワクチン70万回を提供され、秋には同量を返却する契約が結ばれたのだが。これが初めて成立したワクチンスワップ協定ということになる。
米国はワクチンの開発国であり、また、イスラエルは、世界最速でワクチン接種が進んだ国。韓国としても、ワクチンスワップを申し入れる充分な相手と考えているのだろう。一流国家同士の対等な相互互助ということで…。しかし、ルーマニアでは、どうだろうか。
ワクチン供給量が3倍に増えても素直には喜べない…
ルーマニアのワクチン接種率は、韓国に供与を申し入れた時点で、人口の30%にも満たない状況だった。国民のワクチンへの不信感もあり、EU諸国の中では最下位。また、欧州諸国の中では貧困率も高く、先進国と評価することはできない。
そんなルーマニアからワクチンが無償供与されるという報道に対して、まず最大野党・国民の力が「廃棄寸前のワクチンを他国からもらわねばならないのは屈辱だ」「大統領は韓国をワクチン処理国転落させた」などと激しい政府批判を浴びせてきた。SNSなどでも騒ぎは広がる。
これでは政府も無償供与を否定するしかなく、あのような発表になってしまったのではないかと思われる。真実は分からないのだが。
さて、現在の段階でわかっていることだが、9月1日になって韓国政府は、ルーマニアから約150万回分のワクチンを譲り受けることを発表した。そのうち105万回分は金を払って買い取り、残りの45万回分は医療物資との交換ということであるとして「無償供与」ではないということが協調された。
当初予定していた分の3倍もの量を受け取るのだから、素直に喜んで感謝すればいいのにとは、思うのだが。
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、近著『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社、2021年)。