「アフガンの二の舞になってしまう」
バイデン大統領はアメリカ同時多発テロから20周年の節目にあたる今年9月11日までに、アフガニスタンの駐留米軍を完全撤退させると表明して、世界中に衝撃が走った。
その直後から、アフガン国内ではイスラム主義勢力タリバンが攻勢に転じ、支配地域を急速に拡大してゆく。米軍がほぼ撤退を完了した8月15日になると、ついに首都カブールが占領されて、アフガン政府は倒れてしまう。その様子を世界中が固唾(かたず)をのんで見守っていたのだが、なかでも韓国では、
「このままでは、いずれ我が国もアフガンの二の舞になってしまう」
と、有識者たちが危機感をあらわにして警鐘を鳴らし、不安にかられている国民も多いという。
アフガンや南ベトナム同様に米軍の支援で成り立つ韓国
かつて、米国は共産主義の膨張を食い止めるため、南ベトナムを経済支援しながら軍事介入を行った。しかし、北ベトナムやベトコンはこれに屈することなく戦争は長期化する。多額の軍事費の負担や人的損耗に耐えきれなくなった米国は、パリ和平協定に調印して停戦に応じ、ベトナム戦争の終結を宣言してベトナムからの撤退を開始した。
しかし、北ベトナムやベトナム解放戦線など共産主義勢力の侵攻は終わっておらず、米軍が去った後、南ベトナムは単独でこれと戦うことになる。やがて抗えずに首都サイゴン(現在のホーチミン)は陥落し、南ベトナム政府は倒れた。アフガンの状況とまったく同じだった。米国はいつまでも解決しない争いに嫌気がさして、介入を続けることは国益を損なうだけだと判断。味方を見捨て手を引いたのである。
韓国もまた、アフガンやベトナムと同様に米国の支援によって成立した国家。米国から経済的支援を受け、米軍が駐留して安全を守ってくれた。同じ自由と民主主義という共通の価値観を有する国であるがゆえ、その庇護を受けることができたのである。
文政権の背信行為に韓国民は戦々恐々
しかし、米国の国力は最盛期よりも確実に落ちつつある。それだけに堪え性もなくっている。守るべき価値がないと判断すれば、簡単に切り捨てる。
米国にとって、今の韓国は守るべき価値があるのだろうか。
「本当に価値観を共有する国と言えるのか?」
そのあたりのことを胸に手を当てて考えると…、韓国人の不安はさらに大きくなってくる。
「文在寅大統領は韓米合同演習を南北対話の障害のように追い込んでいる」
米韓合同演習に消極的な文在寅(ムン・ジェイン)大統領に対して、かつて野党がこのような指摘をしたことがある。
文政権が軍事面で米国と距離を置きたがっている素振りは、素人目からもわかる。日本との軍事情報包括協定(GSOMIA)の破棄を匂わせ、日米豪印による中国包囲網「クアッド」への参加を拒否するなど、米国からすれば裏切りともとられない行動が多々見受けられる。
米国も軍事予算削減を近年の国策としているだけに、信頼できないと見れば真っ先に切ってきそう。在韓米軍の完全撤退も近い将来に現実化すると予想する有識者も多い。
そうなれば、北朝鮮や中国からの脅威に独力で対抗できるか。テレビニュースで報道されるタリバンによるカブール占領の映像、近い将来にソウルが同じ事態になるのかも…と。
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、近著『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社、2021年)。