米国を突き突き放す2日連続での対米談話
北朝鮮の李善権(リ・ソングォン)外相は6月23日、米国との無意味な接触は「考えていない」とする談話を発表した。
前日の22日には、金正恩(キム・ジョンウン)総書記の実妹である金与正(キム・ヨジョン)党副部長も「誤った期待は自らをより大きな失望に陥れる」との談話を発表し、対話を呼びかける米国をけん制していた。
金正恩総書記は17日の党中央委員会全員会議で、米国について「対話にも対決にも準備できていなければならない」と言及していたが、2日連続となった談話で対話を表明する米国を突き放した形だ。
米国に対し「誤った期待は失望することになる」 金与正党副部長
今回の2つの談話は非常にシンプルなものであった。まず、22日の金与正氏の談話は「米国ホワイトハウスの国家安保補佐官が、党中央委員会全員会議が今回、宣明した対米立場を『興味あるシグナル』とみなしていると発言した報に接した」という一文から始まった。
ジェイク・サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)が20日(現地時間)、金正恩総書記が対話の可能性に言及したことについて「興味深いシグナル」と述べたことに対して反応した形だ。その上で、金与正氏は「朝鮮のことわざに、夢より夢占い(悪いことは解釈によっては良くなるという意)という言葉がある。米国は、おそらく自らを慰める方に占っているようだ。誤った期待は、自らを大きな失望に陥れるであろう」と指摘して談話は終わっている。
わずかこの4文のみの談話であり、過去の金与正談話と比較しても非常に短い内容である。
李善権外相「無意味な米国との接触は考えていない」
続いて李善権外相の23日の談話だが、こちらはさらにシンプルで2文のみ。まず、李氏は「外務省は党中央委員会副部長(=金与正氏)が米国の早まった評価と憶測と期待を一蹴する明確な談話を発表したことを歓迎する」と述べ、外務省として金与正談話の支持を表明した。その上で、「我々は惜しい時間を失う無意味な米国とのいかなる接触の可能性についても考えていない」と主張し、談話を結んでいる。
談話としては、金与正談話を政府機関として追認することが目的であったと考えられる。
米国・ソンキム特別代表「条件なしでいつでも会うことができる」
一方、米国は北朝鮮との対話に前向きな姿勢を示している。対話に否定的な金与正談話が発表されたことに対し、米国務省のネッド・プライス報道官は22日の記者会見上で「我々の(対北)外交に対する考え方は変わっていない」と表明。北朝鮮側が「前向きに反応することに期待する」と述べるなど、改めて北朝鮮との対話方針を示した。
前日(21日)には、訪韓した米国務省のソン・キム北朝鮮担当特別代表が「我々もまた、どちら(対話と対決)に対しても準備ができている」「条件なしでいつでも会うことができる」と表明している。
キム氏はソウル滞在中(19日~23日)に、日米韓の北朝鮮当高官による3者協議に臨んでおり、日米韓3か国としての対北方針とも言える。
2つの談話は米朝間の認識のずれを指摘した可能性
さて、対話を表明する米国に対して、なぜ金与正氏は、冷ややかな談話を送ったのだろうか。
前提として、最高指導者である金正恩総書記が表明した「対話と対決」方針を金与正氏や李善権氏らが簡単に覆すことはありえない。その上で2つの談話をよく読むと、米国との対話を全否定しているわけではないことがわかる。金与正談話では「誤った期待」、李善権談話では「無意味な接触」と言及しているが、「対話に対して北朝鮮と米国の間で認識に隔たりがある」と遠回しに主張していると解釈できる。
たとえば、キム特別代表は「無条件談話」を呼びかけたが、北朝鮮側はこれまで一貫して「板門店宣言」(2018年4月南北合意)および「シンガポール合意」(6月米朝合意)の遵守を呼びかけ、米国に対して対朝鮮敵視政策(制裁等)の撤回を求めてきた。そもそも北朝鮮は条件付けを行なっているのであり、無条件対話には慎重になるだろう。このような認識のずれを北朝鮮側は感じているものと考えられる。
米朝・南北関係が良好であった2018年時ならともかく、「次はシンガポール合意に基づいて米国が具体的措置を実施すべき」と主張してきた北朝鮮からすれば、米国の具体的行動の提示なしに北朝鮮が対話に応じる可能性は小さいのだ。
とは言え、金正恩総書記が「対話」という選択肢を表明した通り、米国との対話は期待するものである。そのため、やみくもに「対決」の選択肢をとることもないだろう。北朝鮮としては対決の道もあると考え「自力更生」の覚悟も決めて対話と対決を両にらみしている状況であり、いずれの道にも舵を切れる準備を進めていると言える。
北朝鮮と日米韓双方が、水面下でどのような選択肢や条件を提示していくかが鍵となるであろう。
八島 有佑
@yashiima