第1書記= 党総書記の代理人と明記
第1書記= 党総書記の代理人と明記
北朝鮮で憲法の上にある「朝鮮労働党規約」の最新版が最近、韓国側に伝わった。かなりな部分で改正が行われており、今後の北朝鮮の政治路線や南北関係への影響について韓国で大々的に報道されている。
北朝鮮が党規約の改正を決めたのは今年1月9日のこと、朝鮮労働党第8回大会だった。この決定自体は報道されていたが、改正された党規約の中身は未公開のままだった。
党規約は2016年5月第7回党大会でも改正されている。このときも公開されず、あとになって徐々に判明してきた。
これは党規約が小冊子の形で印刷され、党員に配布され、外に漏れやすくなるためだ。今回も、韓国の情報機関が何らかのルートで入手したのは間違いない。
分析したい点は多いものの、とりあえず最も論議を呼んでいる部分を選んでみよう。
新しい党規約には、
「党中央委員会全員会議は、重要な問題を討議決定し、党中央委員会政治局と政治局常務委員会を選挙し、党中央委員会第1書記、書記達を選挙し、書記局を組織し、党中央軍事委員会を組織し、党中央検査委員会を選挙する」
などと書かれているという。
ここに出てきた「第1書記」について、同じ改正党規約は、党総書記の代理人と明記していた。ちなみに日本語では通常「書記」と表記されるが、朝鮮語では「秘書」となっている。これは、以前からの報道上の慣習であり、同じ意味だ。
総書記は、全党の組織を指導する権限を持っているので、自動的に「代理人」も、そういう広範囲の権限を持っていると見ていいだろう。各種会議を主宰し、意見を取りまとめることだ。
2016年までの第1書記とはまったく異なる新ポスト
第1書記は、金正恩(キム・ジョンウン)総書記自身が2012年4月~2016年5月まで持っていた肩書きと表面的には同じだ。しかし、このときは、死去した父親の金正日(キム・ジョンイル)総書記を「永遠の総書記」としたうえで、自分がその下のポストである「第1書記」に就いた。今回は、そのときとはまったく違う性格のポストと言える。
すでに誰かがこのポストに就いているのか、これから就くのかは報道がないのでわからない。このポストに就く可能性が高いとみられているのは、趙甬元(チョ・ヨンウォン)党書記だ。ここ数年、急速に金正恩総書記に接近し、事実上ナンバー2の座を手にしているからだ。
一部では、このポストは金正恩総書記の後継者を意味するため、当分は空席のままか、実の妹である金与正(キム・ヨジョン)が暫定的に就くとの見方もある。
権力への自信か?単なる代理か?
「公式代理人」を置いた意図について北朝鮮は明らかにしていない。韓国の北朝鮮専門家の多くは、「自分の代理人を置いても、大丈夫なほど権力に自信を持っている証拠」(パク・ウォンゴン梨花女子大北韓学科教授)としている。北朝鮮の最高権力者となって10年が経ち、「権力を確立した証し」という見方だ。
また、公式代理人とあったにしても、総書記の絶対権力は変わっておらず、権限は限定的との指摘もある。「総書記の指示を受けて書記、党員をつなぐ役割に留まる」(梁茂進(ヤン・ムジン)北韓大学院大学教授)と分析だ。
有事への備えか?
北朝鮮はコロナ禍で中朝国境を閉鎖し、すでに1年半近くが過ぎている。物価の高騰、食料不足も伝えられ、平壌駐在の外交官はほとんどが北朝鮮を出て、帰国してしまった。
新型コロナウイルスのワクチンは、国際的なワクチン供給の枠組みから配給を受けることは決まったものの、接種状況のモニタリングをめぐって対立し、実際の接種は始まっていない。
こういった厳しい状況を踏まえ、李鍾奭(イ・ジョンソク)元統一相は、統一省担当記者たちに対して、「何か緊急事態に備える意味があるのではないか。後継者にすることも意識しており、妹の与正がこの職に就くだろう」と説明した。私も、この「有事への備え」説を支持している。
いずれにせよ、どの説が当たっているのか、今後徐々にわかってくるに違いない。
五味 洋治(ごみ ようじ)
1958年長野県生まれ。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年、韓国延世大学語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大に客員研究員として在籍。現在、論説委員。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないか』(創元社、2017年)、『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋、2018年)、近著『新型コロナ感染爆発と隠された中国の罪』(宝島社、2020年・高橋洋一らと共著)など。
@speed011