バイデン大統領「外交と抑止で北朝鮮の脅威に対応」

バイデン大統領「外交と抑止で北朝鮮の脅威に対応」

ホワイトハウスのジェン・サキ大統領報道官 出典 ホワイトハウス [Public domain], via Flickr

 米朝対話を巡り新たな動きが出ている。米国のジョー・バイデン大統領は、4月28日に行なった就任後初めての議会演説で、「イランと北朝鮮の核計画は、米国や世界の安全保障への深刻な脅威」と言及した。その脅威に対して「外交と厳格な抑止」を用いて対処すると述べ、米朝対話の可能性を示したのである。

 4月になりバイデン政権の対北政策が少しずつ明らかになる中で、北朝鮮側も反応を示している。

バイデン政権「段階的解決方式」も検討か

 演説2日後の4月30日、ホワイトハウスのジェン・サキ大統領報道官は、対北政策の見直し作業が完了したと発表し、バイデン政権における戦略を説明した。

 サキ報道官は、「朝鮮半島の完全な非核化」を最終目標に、同盟国と連携して「調整された現実的なアプローチ」で対北交渉に取り組むとの方針を示した。そして、その手法は「グランドバーゲン(包括取引)の達成を目的とするものでも、戦略的忍耐でもない」とも述べている。

 前者のグランドバーゲンとは、トランプ前政権時の「完全な非核化達成時に完全な制裁解除」という方式で、大統領補佐官だったジョン・ボルトン氏らが主張したもの。後者の戦略的忍耐とは、オバマ政権時、「北朝鮮が非核化に向けた不可逆的措置をとるまで米国は対話も譲歩もしない」とい消極的姿勢を自ら表現した言葉である。

 サキ報道官の発言から、バイデン政権の対北政策は、トランプ政権とオバマ政権の中間のような第3のアプローチになると考えられる。

 北朝鮮が以前から求めていたように、「北朝鮮の非核化作業の進捗に合わせて、米国側も部分的に制裁を緩和していく」という「段階的解決方式」をとる可能性もある。

それ相応の措置と警告する北朝鮮

 さて、バイデン大統領の演説に対し、北朝鮮側はクォン・ジョングン外務省米国担当局長の談話という形で反応した。国営メディア・朝鮮中央通信が5月2日に掲載した。

 談話はバイデン大統領の演説を非難するもので、「米国の執権者が就任後に初めて議会で演説し、またもや失言をした」と主張した。

 北朝鮮としては、米国から「対朝鮮敵視政策と核を用いた脅迫」を受けたことにより「自衛的抑止力」として核を保有するに至ったと説明。そのような経緯を無視し、バイデン大統領が北朝鮮の核計画を「深刻な脅威」と非難したことは自衛権の侵害であると指摘した。

 その上で、バイデン大統領が外交的努力を行うと表明したことは、「自分らの敵対行為を覆い隠すための見栄えのよい看板に過ぎない」と断じた。

 さらに談話では「米国の新たな対朝鮮政策の根幹が何であるのかが鮮明になった」として、米国の対北朝鮮敵視政策が継続していると認定。「我々はやむを得ず、それ相応の措置を取らざるを得なくなるであろうし、時間が経つほど米国は、非常に深刻な状況に直面することになるであろう」と米国に警告を送った。

米国からの人権批判に反発も大統領批判はなし

 同じく5月2日、朝鮮中央通信は別途、米国を非難する外務省報道官談話を掲載している。談話は、米国が北朝鮮の人権問題を提起していることに対して反発。「我々の思想と体制を抹殺するためにでっち上げた政治的謀略」と非難した。

 これは米国務省のプライス報道官が4月28日、「北朝鮮では収容された政治犯が壮絶な拷問を受けている」「金正恩(キム・ジョンウン)体制に説明責任を果たすよう求める」などと発言したことへの反応とみられるが、詳細は不明。

 談話では、「米国が我々の最高の尊厳(=金正恩総書記)を貶めたのは、我々との全面対決を準備しているという明確な信号である」と米国の動きをけん制した。

 前述の外務省局長談話と同様、米国の北朝鮮敵視政策に対応して「それ相応の措置をとる」との警告を重ねた。しかし、バイデン大統領など個人名をあげての非難がなかったところに慎重な北朝鮮の態度が見て取れる。

対米交渉に向けたけん制か?

 今回の談話を読む限り、北朝鮮側は「度重なる警告にもかかわらず米国の対敵視政策は継続している」と判断しているようだ。5月3日時点で、サキ報道官の発表に対する北朝鮮側の反応はまだないが、おそらく、すぐに論調を変化させることはないとみられる。

 ただし、北朝鮮の今回の2本の談話は、米国の動きに対するけん制という側面が強く、現時点で対米交渉の可能性を自ら放棄する可能性は低い

 今回バイデン大統領への非難談話を発表したのは「外務省局長」級であるが、これより上の役職の者が異なった論調の談話を発表する余地を残している。北朝鮮側は「米国が制裁など敵視政策を撤回すれば向き合う準備がある」と繰り返し言及しているとおり、バイデン政権の出方を伺っている状況と考えられる。

八島 有佑

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