民主党のバイデン氏が米大統領選で勝利宣言へ
米大統領選は7日(日本時間8日)、ジョー・バイデン前副大統領が当選に必要な選挙人の過半数ライン(270人)を超え、当選を確実にしたと複数の米メディアが伝えた。
これを受けてバイデン氏は「私はすべての米国人のための大統領になる」と勝利宣言を発表。
当選が確定すれば、バイデン氏は来年1月20日に第46代大統領に就任するが、トランプ大統領は「選挙はまったく終わっていない」と結果を受け入れない声明を出し、法廷闘争を続ける考えを明確にしている。
そのため、次期大統領確定までにもうしばらく時間がかかることが予想されるが、現時点で次期大統領として有力となったバイデン氏が今後、北朝鮮に対してどのような方針を掲げるのか注目が集まる。
金正恩委員長を「悪党」と呼ぶバイデン氏
バイデン氏はトランプ大統領と異なり、北朝鮮の核・ミサイル保有や人権問題などに対して厳しい姿勢を見せている。
10月22日の大統領候補者の討論会では、トランプ大統領は過去3回の金正恩委員長との会談によって、「良好な首脳関係を築いたことで、数百万人が犠牲になる核戦争を回避した」とアピールしていた。これに対して、バイデン氏は「(トランプ大統領は)北朝鮮を正当化した。仲良しという話だが、その仲良しの相手は『thug』(悪党、ちんぴら)だ」と非難している。
また、トランプ大統領が「外国の指導者(金正恩)と良好な関係だというのは良いことだ」と反論したところ、バイデン氏は「まるでヨーロッパ侵攻前のヒトラーと(宥和政策によって)友好関係にあったと言うようなものだ」とまで述べた。金正恩委員長をヒトラーと同一視するかのような発言である。
北朝鮮は米大統領選の結果を静観する姿勢を貫いてなのか、この討論会でのバイデン氏の発言に対して反応を見せていない。
北朝鮮はバイデン氏を「狂犬」と呼んで非難の応酬
ただ、これ以前にはバイデン氏と北朝鮮との間では非難の応酬が続いていた。
たとえば、2019年5月18日にバイデン氏は集会演説で、トランプ大統領が「プーチン大統領や金正恩のような独裁者や暴君を受け入れている」と指摘した。トランプ大統領への非難が主目的ではあるが、金正恩委員長を「暴君」と呼んだのである.
これに対して、北朝鮮国営メディア「朝鮮中央放送」(5月22日)は、「我々の最高尊厳(金正恩委員長)を冒涜する妄言を口にしたことは大変な政治的挑発」であると指摘。さらにバイデン氏を「人間として備えなければならない初歩的な品格すらない」と非難したのである。
しかし、バイデン側は態度を改めることはしなかった。2019年11月には、バイデン陣営が米大統領選に向けて出したキャンペーン広告において、2018年米朝会談での金正恩委員長の写真を「暴君」というナレーションで紹介したのである。
当然、朝鮮中央放送(11月14日)はこれに反応。バイデン氏を「狂犬」と称し、その言動を批判する論評を掲載したのである。その内容は、「バイデンのような狂犬を生かしておけば、より多くの人々が被害を受ける。手遅れになる前に棒で殴り殺さねばならない」などと猛批判するもので、近年でも例を見ないほどの言葉でバイデン氏を攻撃した。
だが、このような批判も意に介していないのか、バイデン氏は11月15日、「殺人的な独裁者の金正恩は私のことを好きではないようだ」とした上で、「彼らからの罵倒は名誉の勲章」であると言い返している。
また、トランプ大統領が以前に「金正恩委員長と恋に落ちた」と述べたことを引き合いに出し、「バイデン政権にラブレターはないだろう」と言明した。トランプ大統領のようなスタンス、つまり「宥和的な態度」で北朝鮮と対話するつもりはないということを示したのである。
最悪の米朝関係だったトランプ政権初期
ではバイデン政権は北朝鮮に対して強硬姿勢を貫くのだろうか。
振り返ってみると、今でこそトランプ大統領と金正恩委員長は良好な関係を構築しているが、2017年12月ごろまでは北朝鮮側はトランプ大統領を「老いぼれ」と称し、トランプ大統領は金正恩委員長を「ロケットマン」と呼ぶなど、非難の応酬が続いていた。このことを考えると、現在のバイデン氏の対北姿勢が大統領就任後も続くとは限らない。
また、バイデン氏が副大統領を務めていたころ(2009年1月〜2017年1月オバマ政権)とは異なり、今では北朝鮮は核を保有し、米国全土を射程におさめるICBMを保有するなど、軍事能力は飛躍的に高くなっている。そのため、強硬策一辺倒で進めるわけにもいかないし、対話の道筋を模索する可能性がある。
実際、バイデン氏は10月23日の討論会で、米朝対話について、「北朝鮮が核戦力の削減に応じることが条件。朝鮮半島は非核化地域となるべきだ」と述べている。条件つきではあるが交渉への道は閉ざしていないのだ。
ただ、トランプ大統領は金正恩委員長との個人的な関係をもとに「トップダウン方式」で米朝交渉を進めてきたが、バイデン氏はこれを「何ら成果なく、北朝鮮に正統性だけを付与した」と批判的な立場で評価している。
バイデン政権は北朝鮮への圧力を強めるのか?
つまり、米朝交渉が継続されるとしても、首脳外交ではなく実務者会議に重きを置いた外交に転換されると見るべきだろう。
とは言え、当面の間は米朝対立が高まるリスクの方が大きい。たとえば、米国が米朝会談の合意を反故にしたり、「北朝鮮が非核化作業を先行して実施すること」を対話の条件にするのであれば、トランプ政権でもそうだったように北朝鮮は対話に臨まないとみられるからだ。
今後、バイデン氏が北朝鮮に対して敵対的な態度をとれば、北朝鮮は「自衛手段」としてミサイル実験など軍事力強化を進めることもありえる。また、逆に北朝鮮が米国に対して攻撃的な態度を見せれば、バイデン氏がそれを「米国への脅威」として取り上げ、北朝鮮への強硬策を進めることも予想される。
韓国政府はバイデン政権に米朝対話を続けるよう働きかけるとみられるが、米朝対話の道のりは険しい。
八島 有佑