米朝首脳会談開催。米朝両陣営の参加メンバーと当日の流れ

米朝首脳会談開催。米朝両陣営の参加メンバーと当日の流れ

出典 『BBCニュース

米朝首脳会談開催。米朝両陣営の参加メンバーと当日の流れ

 6月12日、トランプ大統領と金正恩党委員長による史上初の米朝首脳会談がシンガポールの「カペラホテル」で行われた。
 
 両国代表団には、

・米国代表団
 トランプ大統領
 ポンペオ国務長官
 ケリー大統領首席補佐官
 ボルトン大統領補佐官
 ソン・キム駐フィリピン大使
 ポティンガー国家安全保障会議アジア上級部長
 シュライバー国防次官補
 サンダース大統領報道官

・北朝鮮代表団
 金正恩(キム・ジョンウン)党委員長
 金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長
 李洙墉(リ・スヨン)党副委員長
 李容浩(リ・ヨンホ)外相
 努光鉄(ノ・グァンチョル)人民武力相
 金与正(キム・ヨジョン)党第1副部長
 崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官
 玄松月(ヒョン・ソンウォル)三池淵管弦楽団団長
 韓光相(ハン・グァンサン)党財政経理部長

が名を連ねた。

 以下に会談の流れと両首脳の主な発言をまとめた。

〇首脳会談(9時4分~9時51分、以下ともに現地時間)
 (会談前)
 トランプ大統領「本当に素晴らしい気分だ。我々は素晴らしい議論をし、大成功を収める。成功する。(金正恩党委員長に会えて)光栄だ。我々は素晴らしい関係を築くと思う。疑いない」

 金正恩党委員長「ここまで来る道は楽な道ではなかった。我々には足かせとなる過去があり、誤った偏見と慣行が時に我々の目と耳をふさいでいたが、すべてを克服してここまできた。世界の多くの人々はこれをSF映画や空想だと思うだろう」

〇両国の閣僚らを含めた拡大会合(9時51分~)
 <出席者>
 米国…トランプ大統領、ポンペオ国務長官、ケリー大統領首席補佐官、ボルトン大統領補佐官
 北朝鮮…金正恩党委員長、金英哲党副委員長、李洙墉党副委員長、李容浩外相

〇ワーキングランチ(11時35分~)
 <出席者>
 米国…トランプ大統領、ポンペオ国務長官、ケリー大統領首席補佐官、ボルトン大統領補佐官、ソン・キム駐フィリピン大使、ポティンガー国家安全保障会議アジア上級部長、サンダース大統領報道官
 北朝鮮…金正恩党委員長、金英哲党副委員長、李洙墉党副委員長、李容浩外相、金与正党第1副部長、努光鉄人民武力相、崔善姫外務次官、韓光相党財政経理部長

〇合意文書署名(午後1時39分~)
 トランプ大統領「非常に重要な文書に署名している。極めて包括的な文書だ。我々は実に良い関係を築いた。間もなく記者会見を開く。共に文書に署名でき、とても光栄だ」

 金正恩党委員長「今日のこの歴史的な出会いで、過去を乗り越え、新たな出発を知らせる歴史的な文書に署名する。おそらく世界は重大な変化を見ることになるだろう。今日のために努力してくれたトランプ大統領に感謝したい」

〇署名式後
 トランプ大統領「(金正恩党委員長は)素晴らしい性格で、非常に賢い。うまく組み合わさっている。交渉に値する人物だ。我々は非常に良い日を過ごし、互いの国について多くを学んだ」

米朝首脳会談で出された米朝共同声明(米朝合意)の内容

 米朝共同声明の内容は、以下の通りである。

 米国のトランプ大統領と北朝鮮の金正恩党委員長は、2018年6月12日にシンガポールで史上初となる歴史的な会談を行った。

 トランプ大統領と金正恩委員長は、新たな米朝関係や朝鮮半島における永続的で安定した平和体制を構築するため、包括的かつ誠実的な意見交換を徹底的に行った。

 トランプ大統領は、北朝鮮に体制の保証を提供すると約束し、金正恩委員長は朝鮮半島の完全な非核化への断固として揺るぎない決意を再確認した。

 新たな米朝関係の確立は、朝鮮半島と世界の平和と繁栄に貢献し、また両国の信頼確立が、朝鮮半島の非核化を促進すると確信したトランプ大統領と金正恩委員長は、以下の通り宣言する。

1.米国と北朝鮮は、平和と繁栄を求める両国国民の願いにそい新たな米朝関係の確立に取り組む。
2.米国と北朝鮮は、朝鮮半島の永続的かつ安定した平和体制の構築に向けて共に努力する。
3.北朝鮮は、2018年4月27日の板門店宣言を再確認し、朝鮮半島の完全な非核化に向けて取り込む。
4.米国と北朝鮮は、戦争捕虜や行方不明兵の遺骨の収集に取り組む。その中には、すでに身元が特定されている遺骨の即時返還も含まれる。

 史上初の米朝首脳会談は、2国間で数十年にわたった緊張と敵対関係を乗り越え、新しい未来を切り開く転換点であることを再確認し、トランプ大統領と金正恩党委員長は、共同声明の内容を完全にまた迅速に実行に移すことを約束する。

 米国と北朝鮮は、この首脳会談の成果を履行するため、可能な限り早期にポンペオ国務長官とそれに対応する北朝鮮高官による後続交渉を行うことを約束する。

 トランプ大統領と金正恩党委員長は、新たな米朝関係の発展と朝鮮半島と世界の平和や繁栄安全のために、協力していくことを約束する。

共同声明では「非核化」に向けた具体的なプランは提示されず。米朝首脳会談は失敗だったのか?米朝共同声明をどう評価する?

 米朝共同声明については賛否が分かれている。 

 声明には、米政府が求めてきた北朝鮮の「完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄(CVID)」の文言が盛り込まれなかったことで、「米国が北朝鮮に譲歩した」という批判が多く寄せられている。
 また、「非核化」に向けた具体的な期限や方法といったプランが示されていないことについても「抽象的な合意である」という指摘もあるなど、北朝鮮の「非核化」に向けて大きな合意が得られると期待していた層にはやや不満が残る結果となった。

 これに対して、ポンペオ国務長官は13日、記者団の取材に対し、「北朝鮮の非核化の重要な部分は、2年半程で達成できると期待している」とした上で、さらに、共同声明で「完全な非核化に取り組む」とした合意文について、「『完全な』という言葉には『検証可能』で『不可逆的』という意味が含まれている」と合意の意義を説明している。

 この説明から考えると、おそらく米朝首脳会談では「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化」についても議論されたものの、金正恩党委員長が従来からの立場通り「検証可能」「不可逆的」という文言を使用することを拒否したため、米国が北朝鮮に譲歩する形で今回の声明文の文言に落ち着いたとみられる。

 ただ、一般的には首脳会談に至るまでにある程度実務者協議で合意内容のすり合わせが行われるところ、今回米朝首脳会談直前まで「非核化」の定義等に関して協議が難航していたという情報もあり、共同声明において「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化」という文言や具体的な「非核化」プランを盛り込むができないことは米国の想定内であったと考えられる。

 それでもなおトランプ大統領が米朝首脳会談に臨んだのは、金正恩党委員長に直接会ってどういう人物なのか見極めたいという思いがあったからだろう。

 つまり、今次会談で共同声明を出すに至ったことは、トランプ大統領が金正恩党委員長の「非核化」への意思に嘘はないと判断したことの表れとも言える。

 トランプ大統領の中では、共同声明の中に「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化」という文言が入るかどうか、具体的なプランが示されるかどうかは大きな問題ではなかったのだろう。

 筆者も、米朝が対話していくという姿勢が示されたことが重要なのであり、共同声明に「非核化」プランが盛り込まれなかったことをもって米朝首脳会談が失敗であったと判断することはできないと考える。

非公式合意がポイント。米朝共同声明は「平和条約」締結に向けた序章か?

 また、共同声明において、北朝鮮と韓国の課題である「朝鮮半島の永続的かつ安定した平和体制の構築」に米国が関与することを正式に表明したことも大きな注目点である。

 4月27日の「板門店宣言」で言及された「休戦協定を平和条約にする」という目標については直接触れていないものの、米韓朝が「平和条約」締結に向けて努力するという意思を表明したものといえる。

 この点、「板門店宣言」では「恒久的な平和体制の構築のために、南北米3者会談、南北米中4者会談を積極的に推進」するとしていたところ、今次声明では「板門店宣言を再確認する」としているだけで、中国を含めるかどうかについては言及されていないため、中国の立ち位置は不明である。

 さらにトランプ大統領は会談後の記者会見で、金正恩党委員長と「非公式に」合意したこととして、次の2点を明らかにしている。

1.米国は、米朝で交渉が続く間は米韓合同軍事演習を中止する。
2.北朝鮮は、ミサイル発射試験場を廃棄する。

 米韓合同軍事演習の中止は金日成主席時代からの悲願であるが、「非核化」プランが策定される前に中止を宣言したことは、米国側が譲歩した形となっている。

 北朝鮮としては、米韓合同軍事演習の中止と米国からの体制保証という好条件を得たことで、ミサイル発射試験場の廃棄に合意したのだろう。

 米国が朝鮮半島情勢の安定化のために真剣に取り組んでいる証ともいえるが、北朝鮮がそれに応えてどの程度迅速にミサイル発射試験場の廃棄を進めていくかが注目される。

米朝共同声明は大きな一歩。今後の朝鮮半島をめぐる動向は北朝鮮がどのように非核化を履行するかに注目

 結論として、米朝共同声明が抽象的であり、「非核化」に向けた具体的なプランが示されていなかったとしても、それだけで今次米朝首脳会談及び共同声明が無意味だったということにはならない。

 少なくとも朝鮮半島をめぐる緊張状態が一時的かもしれないが解消され、「平和条約」締結および朝鮮半島の平和に向けて米朝が協力するというビジョンが示されたことはこれまでの歴史から考えると大きな進展といえる。

 実際、北朝鮮としては米国からの体制保証や米韓合同軍事演習の中止という悲願が叶ったことで、米国の意思に背いた行動をとってそれらを放棄することは容易にできなくなっている。

 とは言うものの、「米朝和平」というビジョンが絵に描いた餅にならないためには、トランプ大統領の任期である「2年半」以内に北朝鮮の「非核化」に向けたプロセスを進めていかなければならない。

 金正恩党委員長がトランプ大統領に対して約束した「非核化」をどのように履行していくのかが注目される。
 
八島有佑

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