感染対策で犠牲を強いられる富裕層

感染対策で犠牲を強いられる富裕層

7月31日付の労働新聞より清津市浦項区域の第1人民病院による訪問予防医療(提供 コリアメディア)

 北朝鮮で初の新型コロナウイルス感染者が発見された、と言われるのは昨年1月のことだった。中国やロシアからの帰国者の感染も多数報告されているという。医療資源が乏しい国だけに、感染爆発は命取りにもなりかねない。そのため、国境を閉ざして、厳しいロックダウンも行われた。

 これによってウイルスの封じ込めに成功し、現在は1人の感染者も出ていないとされる。あくまで北朝鮮側の発表によるもので、実情についてはよくわかっていない。

 しかし、北朝鮮政府が新型コロナを恐れて、極めて厳しい感染対策を実行したことは事実。それにより犠牲を強いられた者たちがいる。特に動物好きで犬猫などのペットを飼っている富裕層には、悲しい思いをさせられた者が多かったようだ。

新型コロナの影響でペットの飼育が禁止か

 北朝鮮では感染対策の一貫として、大規模な猫の殺処分を実行しているという。新型コロナウイルスは猫科の動物にも感染することがわかっている。各国の動物園でライオンなどの感染が発覚し、それが幾度かニュースでも報道された。

 それらを踏まえてか北朝鮮当局は、新型コロナウイルスに感染した猫が中国から国境を越えて領内に侵入することを懸念して、野良猫の駆除を行った。これに加えて、飼猫の飼育禁止令も公布している。飼猫に対しても殺処分を命じたものだ。しかし、命令とはいえ家族も同然の猫を殺すのは、飼主にとってさぞや辛いことだろう。

 また、首都・平壌では猫に加えて2020年8月2日の朝鮮日報によれば、昨年秋頃から犬の飼育も禁じられたという。近年の平壌では新興富裕層の間で大型犬を飼う者が増えている。それが富める者のステータスシンボルにもなっていた。しかし、経済封鎖に新型コロナの影響も加わって、一般国民は日々の食料にも事欠くほどに困窮極まっている。富裕層の贅沢な暮らしを見せつけられた窮民が、その怒りの矛先を政権に向けてくるとも限らない。それを危惧しての措置。政権への忠誠心が緩みがちな新富裕層への警告的な意味もあるようだ。

飼犬もすべて犬肉料理の材料にされた?

飼犬もすべて犬肉料理の材料にされた?

ポシンタン(補身湯) 出典 Kbarends [Public domain], via Wikimedia Commons

飼犬もすべて犬肉料理の材料にされた?

 コロナ禍の国難の中で、犬を飼うようなブルジョワ的な態度は「社会主義への背信行為」だとして、特に大型犬を飼う者は即刻に差し出すよう命じているとのことだが、こうして集められた犬たちの末路がまた悲しい。

 「犬は個人のペットではなく、国家の大事な食料である」として、平壌市内の犬肉料理屋に送られるという。また、一部は食糧難にあえぐ軍隊に与えられたとも言われる。

 ペット飼育禁止令には、悪化する食糧事情を補うこともその目的にあったのか。北朝鮮や韓国には「補身湯」と呼ばれる犬肉を使った伝統的鍋料理がある。滋養に富んだ健康料理として、厳寒期や食欲が減退する暑い時期にはよく食べられている。

青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)などがある。

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