日本の観光客はパス。韓国の観光客は隔離
7月1日からイタリアでは、2回のワクチン接種を完了した者には隔離義務なしで国内を自由に旅行できる「グリーンパス」制度が実施される。EU諸国間ではすでにワクチンパスポートを運用している国は多いのだが、今回イタリアが導入するグリーンパスは、米国、カナダ、日本などEU域外の国々にもその範囲を広げたことで、世界の旅行業界が注目しているという。
しかし、そこに韓国が含まれていない。これを報道した韓国各紙の論調は、自国がグリーンパスの対象国に選ばれなかったことに不満の色をにじませていた。7月5日の中央日報日本語版の記事タイトルも「イタリア、日本観光客はパス・韓国観光客は隔離」と、なっている。また、韓国内のネット民もこの話題で盛りあがった。
「日本が許されて、なぜ韓国はダメなんだ」
SNSではこういったコメントが目につく。彼らは日本と韓国のワクチン接種率を比較して、韓国よりも接種率が低い日本をグリーンパスの対象国としたことが気に障っているようだ。
1回だけの接種では条件をクリアできず
ここで、NHKの新型コロナウイルス特設サイトを見てみる。ワクチンを少なくとも1回接種した人の割合は、7月6日の時点で韓国が29.93%、日本は25%だった。そこだけを見ると、確かに日本よりも韓国のほうが少し接種率は高い。しかし、現在使用されているワクチンは2回目接種しないと充分な免疫効果を発揮しない。特に最近、流行の主流となりつつあるデルタ株(変異種)だと、1回接種しただけでは有効率33%程度とかなり低くなってしまう。
ワクチンは2回接種せねば意味がない。イタリア政府もグリーンパスの適用条件を「ワクチン2回接種を完了した者」とはっきり明記している。韓国内の新聞記事でも、それについては書いているはずなのだが…。
ワクチン2回接種の条件で考えると、日韓のワクチン接種率は逆転。日本は13.84%、韓国は10.38%となる。韓国では接種率を上げるために本来なら2回目の接種分にとっておくべきワクチンをすべて使い切り、現在は在庫が枯渇している状況とか。その証拠に6月末あたりから接種率が上がらなくなった。ワクチン確保に失敗した韓国は、今後も厳しい状況が続くと思われる。イタリアが韓国をグリーンパス対象国に含まなかった理由もそういったところだろう。
イタリアの「韓国拒否」は20年前の悪行も原因?
また、韓国嫌いの国民感情も考慮しているというのは考え過ぎだろうか。
2002年日韓共催サッカーワールドカップ(W杯)の韓国VSイタリアの試合では、審判による疑惑の判定で韓国が勝利。韓国が審判を買収したという噂は当時から世界中でささやかれていた。イタリアでもスポーツマスコミが韓国の勝利に疑問を呈し、連日のように八百長疑惑が報道された。
以来、イタリアでは嫌韓感情が燃えあがる。W杯の2年後、サッカー・コッパイタリア決勝戦式典に「江南スタイル」で人気のPSYがスタジアムで曲を披露したのだが、この時、観客席から激しいブーイングが巻き起こる。PSYが困惑顔でスタジアムから去る姿が印象的。イタリア人の韓国に対する激しい憎悪が実感できるシーンだった。また、サッカー元イタリア代表のデル・ピエロが、2018年ロシアワールドカップに関するインタビューを受けた時も、韓国が話題に出ると「韓国は悪いジョークを作るのに慣れているから」と、皮肉交じりにコメントしている。
あの時の忌まわしい記憶は、イタリア人の心に深く刻み込まれているようだ。もしも、それが今回のグリーンパス対象国の選定に影響していたとするのならば…、因果応報といったところか。
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)などがある。