隔離免除制度の見直しも
韓国中央防疫対策本部の鄭銀敬(チョン・ウンギョン)本部長は、6月24日の記者会見で「デルタ株(インド型変異種)の感染者が増えている国を防疫強化国に指定し、入国規制を調整する」と発表。7月から施行を予定している隔離免除制度についても、見直しを検討しているという。
京都大学の西浦博教授らのグループがまとめた分析によれば、従来型と比べてデルタ株の感染力は1.95倍にもなるのだとか。オリンピックを控えた日本でも当然のこと、警戒を強めているのだが…、韓国の危機感はそれよりもかなり高い。そこには日韓が使用するワクチンの違いや接種率が関係しているようだ。
ワクチン効果が落ちる変異種の出現
現在、日本で使用しているワクチンの大半はファイザー製。また、自衛隊が運営する大規模接種センターや職域接種で使われるモデルナ製になる。どちらもmRNAと呼ばれるタイプのワクチンで、変異種に対してもかなりの感染予防効果があるとされている。ファイザー製ワクチンを2回投与すれば、デルタ株に対して87.9%の予防率を発揮するという。
一方、韓国ではmRNAワクチンの使用はごくわずか、ウイルスベクターと呼ばれるタイプの英国アストラゼネカ製ワクチンが主流だ。こちらは変異種に対する効果がmRNAに比べて弱いことが以前から指摘されている。ベータ株(南アフリカ型変異種)には効果が期待できないとされ、南アフリカでは使用を中止した。
デルタ株に対してもアストラゼネカの予防率は59.8%と、mRNAワクチンに比べて効果が劣る。また、ワクチンは2度目の接種を完了せねば十分な効果を発揮できない。アストラゼネカを1度接種だけでは、デルタ株に対する予防率は32.9%に落ちる。
日本への対抗意識が仇になった?
韓国ではワクチン確保に出遅れて、世界保健機関(WHO)が主催するCOVAX(コバックス)からの提供にかなりの部分を頼っている状況。供給量は不足しているのだがそれでも6月28日の時点で、ワクチンを少なくとも1回接種した人の割合は29.82%。日本の接種率をはるかに上回っている。しかし、2回の接種を完了した人の割合では日韓が逆転して、それぞれ9.22%と9.06%になる(参考 世界のワクチン接種状況|NHK)。
本来なら2回目の接種に使用するために確保しておかねばならないワクチンも、すべて使い切って接種率を高める方針。これも一説には「接種率で日本を上回る」という対抗意識によるものと言われるが…。
2回目の接種が進められない
ワクチン接種が始まった頃には、英国でもとりあえず1回目の接種率を高めようと同様の方針がとられた。感染力の強い変異種が流行する以前なら、これでも十分な予防効果があるという判断だろうか。しかし、強力なデルタ株の出現により、状況は大きく変わった。
ワクチンを自国で生産できる英国とは違って、ワクチン不足の韓国では状況の変化に対応するのが難しい。1回目の接種に物量を使い切ってしまい、在庫がほとんどない状態だとも言われる。2回目の接種を進めたくても進められない。それだけに危機意識が強くなるのも当然だろうか。
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)などがある。