大統領選挙に向けて党代表に宋永吉議員選出
大統領選挙に向けて党代表に宋永吉議員選出
韓国与党「共に民主党」は5月2日、全国代議員大会で新代表に国会議員の宋永吉(ソン・ヨンギル)氏を選出した。
党代表選は4月のソウル市と釜山市での市長選で惨敗したことを受け党執行部が引責辞任したため行われた。
宋氏は35.6%を得票し、2位の洪永杓(ホン・ヨンピョ)議員とは0.59%差という僅差での当選となった。前任の李洛淵(イ・ナギョン)前代表は全党大会で60.75%を得て選出されており、今回はかなりの接戦となった。
宋氏は当選5回のベテラン議員。比較的派閥色は薄いと評価されるが、文在寅(ムン・ジェイン)大統領に近い人物である。文在寅大統領の支持率が低迷してレームダック(死に体)化が進む中、宋氏が先頭に立って来年3月の大統領選に向けた党勢の立て直しを進めることになる。
過去には“日王”謝罪を擁護するなど対日強硬発言も
宋氏は2013年の仁川市長時代、韓国放送通信大学日本学科を卒業しており与党の中では知日派として知られる。
一方で、今年4月の日本政府の福島第1原発の海洋放出決定について「とてもひどい利己主義で全人類に許されない罪を犯そうとしている」と批判するなど、日本に対して強硬的な発言が多い。
また、2019年に文喜相(ムン・ヒサン)前韓国国会議長が「慰安婦問題の解決には日王(天皇の韓国での蔑称、現上皇陛下)の謝罪が必要」と発言したことで日本から大きな反発が起きたが、このとき宋氏は文議長を支持。「現在の韓日関係を回復するためには日本を代表して安倍首相(当時)や日王が被害者らに真の謝罪をすればいい」と主張したことでさらに反発を招く結果となった。
約20年間、南北交流を推進
その一方で、宋氏は北朝鮮との対話を推進してきた人物でもある。宋氏は2000年に金大中政権時の与党「新千年民主党」(共に民主党と同系統)の推薦で当選し政界入り。それから約20年間、国会議員や仁川市長を務める中で南北交流を促してきた。
昨年11月に米大統領選挙でジョー・バイデン氏の当選が決まったときには、「バイデン政権は特使を派遣するなどして対話のチャンネルを開き、北朝鮮が非核化の道に向かうよう信頼を積み重ねるべき」と米朝対話を訴えている。
2016年には北朝鮮からのミサイル攻撃を防ぐための在韓米軍「終末高高度防衛(THAAD)ミサイル」配備に反対するなど北朝鮮側の立場を尊重した発言も多く、「どこの国の政治家なのか」と物議を醸してきた。
だが、このような宋氏の対北姿勢は、南北対話を目指す文在寅政権の方向性とは合致している。
党刷新に向けて派閥という課題
宋氏は次期大統領選挙の公認候補選出や、党への支持率回復のための組織刷新という課題を抱えている。当選後の受諾演説では「党を1つにまとめ、次期大統領選挙を準備する」と表明し、新型コロナウイルスワクチンや朝鮮半島の平和や繁栄など5つの党重点課題の解決に取り組むと強調した。
だが、30%台の得票率で当選となった宋氏には党をまとめる上でも課題が多い。
宋氏は党内の「親文派」(文在寅派)とは距離を置いているとみられているが、今後党運営の上で無視することもできない。親文派は共に民主党の最大派閥であるからだ。
臨時代議員大会では、共に民主党の最高意思決定機関メンバーである最高委員5人も選出されているが、そのうち4人は親文派である。宋氏は党刷新のために親文派と非文派(非主流派)の間でうまく立ち回らなければならない。
八島 有佑