北朝鮮に本当にコロナ患者はいないのか?(2) 観光産業は瀕死状態の続き。
患者がゼロいう北朝鮮はワクチンなしでやっていけるのか。人口2500万人にワクチンを行き渡らせることは、経済的に破綻している北朝鮮には不可能だろう。
ただ、指導層や軍の幹部などのワクチン分は、どんなことをしてでも入手しようとするに違いない。万が一、流行が起きれば、医療施設が貧弱なため感染拡大を防げない。多くの犠牲者が出る危険性があるからだ。
世界ワクチン免疫連合に申請
どうやら北朝鮮もワクチン入手に懸命なようだ。米メディアによれば北朝鮮が非政府機構の世界ワクチン免疫連合(GAVI)に、新種コロナウイルスワクチンの提供を受けたいと申し出た。
この団体は、先進国が供与した資金を使い開発途上国にワクチンを供給している。世界の低所得国家92か国中86か国がワクチン申請をしている。この中に北朝鮮が含まれていた。量は少なくともいいから、無料でクチンを入手したいのだろう。
また北朝鮮は国交のある欧州の国々に、ワクチンを確保する方法を問い合わせているという。
コロナワクチンなら、お隣の韓国が早々と協力を申し出ている。北朝鮮との融和に熱心な、文在寅政権の李仁栄統一相は昨年12月22日「コロナワクチンと治療剤が開発されて普及したら、(南北が)互いに分けて協力しなければならない」と述べている。
しかし、北朝鮮が韓国を経由してワクチンを入手したら、大きな借りを作ってしまう。国内の貧しい医療事情も分かってしまうため、意地でも頼りたくないのだ。
ハッキング部隊が暗躍か
ワクチンは、世界の国々が金に糸目をつけず入手を争っている。合法的な方法では入手しにくい。このため北朝鮮は、西側のファイザーといった大手製薬会社や研究所にハッキングを仕掛けているという。
北朝鮮のハッカー集団が最近、新型コロナウイルスワクチンの開発を手掛ける英製薬大手アストラゼネカにサイバー攻撃を仕掛けた疑いが浮上した。ロイター通信が昨年11月27日、事情に詳しい情報筋2人の話として報じた。ハッカー集団はSNS上でリクルーターを装い、アストラゼネカの従業員に接近して偽の求人情報を提示。標的となった従業員の中には新型コロナ研究の担当者もいたという。犯行は成功しなかったとみられている。
ハッキング対象は、当初はワクチンの開発情報に集中していたものの、最近では大量生産、大規模な臨床実験結果などに関するハッキングが増加している。
米紙ニューヨーク・タイムズは昨年11月、「北朝鮮とロシアのハッカーらがコロナワクチンの情報を盗むために韓国や米国、カナダ、フランスなどの7企業を狙った」と具体的に報道した。
米マイクロソフト(MS)の調査によるもので、MSは北朝鮮のハッカー集団である「ジンク」と「セリウム」が関与していると明らかにしている。
独自にワクチン開発を行っているとの見方も
一方でにわかに信じがたいが、北朝鮮が独自にワクチンを開発しているという報道もある。ネットメディアの「NK経済」は、北朝鮮の国家科学技術委員会という部署が作成したという文書を報道している。すでに、開発は順調で動物試験を終えて安全性と免疫性が確認されたという。
北朝鮮の内情に詳しい脱北者の1人は、「研究者を中国に派遣し、ワクチンを共同開発している」と話す。この人物によれば、研究者は平壌にある金萬有病院の関係者だという。
この病院は在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)系で、北朝鮮が誇る総合病院の1つだ。
「表向きは豚インフルエンザの共同研究をしていることになっているが、実際はコロナウイルスのワクチンを研究している」(前出の脱北者)という。
自慢の核ミサイル開発では国民を守れず、裏でワクチンを入手しようと懸命になっている北朝鮮の姿は、皮肉というか悲しい限りだ。
(終わり)
五味 洋治(ごみ ようじ)
1958年長野県生まれ。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年、韓国延世大学語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大に客員研究員として在籍。現在、論説委員。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないか』(創元社、2017年)、『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋、2018年)、近著『新型コロナ感染爆発と隠された中国の罪』(宝島社、2020年・高橋洋一らと共著)など。