党大会は予想より控えめだったが
北朝鮮の朝鮮労働党大会が12日に終わり、その後、閲兵式も行われた。コロナ禍と経済不振の影響で、大型の挑発行動はなく、予想よりは控えめに終わった。しかし、金正恩総書記は、核戦争抑止力を強化する、原子力潜水艦の設計が終わったと、所々に火の粉を振りまく発言をした。
米国のバイデン新政権の出方次第では、再び挑発路線に舵を切るかもしれない。
そうなれば、住民生活は後回しとなる。昨年は水害によって農作物が大きな被害を受けており、昨年の北朝鮮の食糧作物生産量が前年より5.2パーセント減の440万トンと推定されている。国内経済の今後は、ますます不透明になっている。
与正氏の地位はどうなったのか?
それに負けないほどよく見えないのが、金正恩総書記の妹、金与正朝鮮労働党副部長の動向だ。
大会を通じて、党政治局候補委員から外れ、党中央委員会委員になったことが確認された。このため専門家の中には、経済不振や対米関係の責任を取らされたとの見方も浮上した。
ところが、13日の「朝鮮中央通信」によると、与正氏は前日発表した談話で「特等の間抜けたち」(『朝鮮日報』日本語版)と韓国を手厳しく批判したという。韓国合同参謀本部が北朝鮮パレードに関して発表した内容に反発するものだった。
悪口は今年も健在
この「間抜け」という表現は、ハングルでは「머저리(モジョリ)」。「馬鹿、あほう」という意味だ。「바보(バボ)」よりやや古くさい言葉で、日常あまり聞かない。
「在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)」の機関紙、『朝鮮新報』が与正氏の発言の日本語訳を公開している。
「ともかく、南側の人々は実に理解しがたい奇怪な一族である。世人を笑わせることだけを選んでしているが、世界的に行動のわきまえがない上では2番目だと言われると残念がる特等馬鹿である」
となっている。30代の女性とは思えない時代がかった表現であり、分かったような分からないような内容だ。専門のスピーチライターが書いたのだろうが、韓国人たちにはかなり受けるようだ。
依然として対南関係の責任者
この発言に関連し韓国の専門家が、メディアにコメントを寄せている。
「昨年も康京和外相の発言が韓国から伝わると、与正氏はリアルタイムに反応していた。兄への忠誠心を示しているのだろう。対南(関係)を統括していることに変わりはない。党の対南書記のポストが空席になっており、いつでもそこに座れる」(ヤン・ムジン北韓大学院教授)
「社会主義体制、特に北朝鮮では幹部の公式な職責と実質的影響力が一致しない場合が多い。金ファミリーの血を受け継いだ白頭血統の与正氏は、実際の職責をはるかに越える影響力を発揮している。役職だけで降格と見ることは難しい」(鄭成長・世宗研究所首席研究委員)と、慎重な見方が大勢になっている。
いずれにせよ、今年も毒舌全開なのは間違いなさそう。北朝鮮ウォッチャーを驚かせ、楽しませてくれそうだ。
五味 洋治(ごみ ようじ)
1958年長野県生まれ。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年、韓国延世大学語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大に客員研究員として在籍。現在、論説委員。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないか』(創元社、2017年)、『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋、2018年)、近著『新型コロナ感染爆発と隠された中国の罪』(宝島社、2020年・高橋洋一らと共著)など。