11月30日朝鮮大学生や識者らが文科省へ要請

11月30日朝鮮大学生や識者らが文科省へ要請

学生支援緊急給付金を朝鮮大学生にも給付するよう文科省担当者に要請する板垣教授(左)

 政府が新型コロナ関連支援策の一環として今年5月に創設した「学生支援緊急給付金」の対象から朝鮮大学校(東京都小平市)の学生が除外されていることを受け、11月30日に衆議院会館で立憲民主党主催のヒアリングが行われた。

 この日は朝鮮大学校の学生や教員、日本の大学教職員などが参加。

 公平な支給を求める大学教職員の声明を取りまとめた同志社大学の板垣竜太教授が、文科省担当者に声明と賛同者名簿が手渡した(賛同者は全国の教職員709人)。

幼保無償化制度や高校無償化制度でも朝鮮学校は対象外

 この制度は、アルバイト収入が大幅に減ってしまうなどして「学びの継続」が困難となった学生を救済することを目的に創設されている。

 対象は国公私立大(大学院含む)や短大、専門学校で、留学生や日本語教育機関も含んでいる(留学生については成績要件が課せられている)。

 板垣教授はこの日の基調報告の中で、「学生支援給付金の対象として幅広い高等教育機関をカバーしているのに、学校教育法における『各種学校』であるという理由で朝鮮大学校を対象から除外した」と問題視した。

 さらに、「『給付金をもらえなかったというだけで(学生にとって)マイナスにはなってはない』と言う人もいるが、そうではない。朝鮮学校の制度除外は、『朝鮮学校をつぶす』という直接的なものではなく、行政の不作為により格差を創出するというものである」と指摘。

 朝鮮学校については、高校無償化制度(2010年)や幼保無償化制度(2019年)においても「対象外」とされている経緯があることから、この日のヒアリングでも「朝鮮学校全体に対する政治的差別」という批判が多く寄せられた。

朝鮮大学生「どうすれば線の内側に入れるのか?」

朝鮮大学生「どうすれば線の内側に入れるのか?」

約1700人分の署名を文科省担当者に手渡す「在日外国人学生の学びの権利を考える会」共同代表の学生(左)

 この日参加した「在日外国人学生の学びの権利を考える会」共同代表の朝鮮大学校の学生は、「新型コロナによる困窮に、朝鮮大学校の学生と日本の大学に通う学生との間に違いはない。コロナ禍は人種や民族にかかわらず等しくふりかかるものなのに、なぜか朝鮮大学校だけ給付金の対象から除外された」と疑問を提起。

 また、今年7月に設けられた要請の場で、文科省担当者が「(対象範囲について)文科省として精一杯手を広げたが、(線を)引いた外にある所から『なぜ(自分たちが)対象外なのか』という話は聞いている。線を引いた外にある学びを否定しているつもりはないが、現在のスキームを適用できる最大限の範囲が今の対象である」などと発言したことを紹介。

 同学生はこの発言に対し、「どうすれば線の内側に入れるのか、また、どうすれば線をなくすことができるのか。なぜ我々が線の外に放り出されなければならないのか。これからも線の外にある学びを切り捨てるような差別には異議を唱えていきたい」と述べた。

文科省「差別や除外という立場で制度をつくっていない」

 当事者らの訴えに、文科省担当者(高等教育局学生・留学生課課長)は制度創設時の経緯を説明。「(給付金の下敷きとなった)高等教育の修学支援新制度(2020年4月から実施)では、大学院生も留学生も対象には含まなかった。だが、学生支援緊急給付金については、修学支援新制度よりも対象を広げたいという考えがあり、制度をつくるときは『広く配ろう』という考えであった」と述べた。

 加えて、ヒアリングの場で参加者らから「排除」という非難が相次いでいることに対し、「線を引いて誰かを排除するという考えではなく、高等教育機関という枠の中でどこまで対象とすべきか検討した結果、現在の給付金の対象範囲となっている。『差別や排除という立場で制度をつくっているわけではない』ということは理解していただきたい」と呼びかけた。

出席した国会議員も文科省の対応を非難

出席した国会議員も文科省の対応を非難

朝鮮大学生を給付対象に含めるよう訴える徳永エリ参議院議員(立憲民主党)

 文科省担当者はあくまで朝鮮大学校除外は「政治的差別」ではないことを強調したが、当事者側からは反発の声が上がった。

 藤本泰成氏(朝鮮学園を支援する全国ネットワーク共同代表)は、「実際に差別や除外があればそれは行政や政治の不作為である。それを解決するのが行政や政治の役割」と指摘。

 ルポライターの鎌田慧氏は、「結果的に給付金を支給しておらず、差別となっている。このことは日本人の恥として正していただきたい」と批判した。

 出席した立憲民主党の議員たちも文科省の対応に非難を寄せる。

 岸まきこ参議院議員は、「どれだけ『差別していない』と言っても、現実に差別が生まれているのであれば対策をとっていかなければならない」と訴えた。

 閉会のあいさつをした徳永エリ参議院議員は、「現在の新型コロナ禍は平時ではなく、(国籍に関係なく)みんな大変で深刻な状況である。文科省の皆さんはこのような状況で平時と同じこと言っていてはいけない」と呼びかけた。さらに、菅首相が11月の答弁の中で、「感染状況や経済状況を見ながら(同制度と関連し)追加支援を検討する」と発言したことを紹介。その上で、「(給付金を)検討するのであれば、(次こそは)朝鮮大学校を対象にすべきだ」と強調する。

朝鮮大学生「民族教育は自分が何者であるかを知るために必要」

朝鮮大学生「民族教育は自分が何者であるかを知るために必要」

立憲民主党主催の当事者ヒアリング(衆院議員会館)

 閉会後、参加した朝鮮大学校生(4年生)に話を聞くと、「こういう場を設けていただき、国会議員の方々に私たちの気持ちを直接伝えることができて非常にありがたいと感じている」と感謝の言葉を述べた。

 その一方で、「文科省担当者の『意識的に差別しているわけではない』とでも言うような発言に胸が詰まる思いである。『差別は意識的にするものなのか』という疑問もあり、もどかしさを感じた」と語り、文科省職員に言葉が届いているのか不安視した。

 また、今回ヒアリングの中でもキーワードとなった「民族教育」であるが、日本社会ではまだまだ理解が浸透していない。このことについて、同学生は、「民族教育は、自分が何者であるかを知るために必要不可欠なものである。私が朝鮮大学校に進学した理由の1つは、(高校時に)自身のアイデンティティが確立していなかったからである。朝鮮大学校では、学問的に自分のルーツを深く学べることに魅力を感じて進学した。グローバル化が進む中において自分が何者かを知ることは非常に大事だと思う」と述べ、民族教育の意義を説明した。

 今後の活動については、「差別が続く限り要請活動は続けていきたい。学生たちの間でも、『絶対にくじけることなく最後まで闘う』という気持ちは一致している」と語る。
 

八島 有佑

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