朝鮮労働党の決定が北朝鮮の国家方針となる
朝鮮労働党の決定が北朝鮮の国家方針となる
北朝鮮は来年1月に第8回党大会を開催することを決定している。党大会(朝鮮労働党大会)は2016年5月以来の開催となり、今後の北朝鮮の方針が内外に示されることから国外からも注目が寄せられている。
ところで、北朝鮮の朝鮮労働党や政府機構において党大会がどのような位置づけにあるかご存知だろうか。
北朝鮮関連の報道では様々な機関や会議が出てくるため混乱しやすいが、今回は党大会など代表的な党の機関について説明したい。
大前提として知っておかなければならないのは、北朝鮮は社会主義国家であり、朝鮮労働党の決定がもっとも重視されるという点である。
朝鮮民主主義人民共和国社会主義憲法第11条には「朝鮮民主主義人民共和国は、朝鮮労働党の指導の下にすべての活動を行う」と明記されている。
つまり、「朝鮮労働党の決議内容が国家の方針・運営を決定づける」と言える。
そのため政府機構である「最高人民会議」(国会に相当)は国権の最高主権機関ではあるものの、朝鮮労働党の決定を覆すことは基本的にはありえない。
ほとんど報道で名前は出てこないが、北朝鮮には朝鮮労働党以外にも実は「朝鮮社会民主党」と「天道教青友党」という政党がある。両政党は最高人民会議にも議席を有しているが、これら政党は朝鮮労働党の指導性を認めており、朝鮮労働党と争う関係にはない。
よって、最高人民会議は、「朝鮮労働党の決定に法的根拠を与える」という意味合いが強いとも解される。
このような理由から北朝鮮の方針や政策を知る上では朝鮮労働党の会議内容や決定が注目されるのだ。
党大会=党の最高指導機関
さて、その朝鮮労働党機構の中でも「最高指導機関」であるのが党大会である。後述の「党中央委員会」が召集することになっている。
党大会の役割は、▽党中央委員会と党中央検査委員会の事業総括▽党綱領と規約を採択または修正・補充▽党の路線と政策、戦略戦術の基本問題の討議・決定▽朝鮮労働党委員長の推戴▽党中央委員会と党中央検査委員会の選挙となっている。
前回党大会からの成果を示す場であるとともに、その後の国家の方針や路線を決定する重大な大会である。
かつては5年に1度の開催が党規約で定められていたものの、実際に5年間隔で開催されたのは第3回大会(1956年)と第4回大会(1961年)のみで、第6回大会(1980年)以降は36年間開催が途絶えていた。
それもあって金正恩政権で36年ぶりに第7回大会(2016年)が開かれたときには話題を呼んだ。余談だがこの党大会の開催間隔に関する条項は、2010年の「第3回党代表者会」で削除されている。
過去4回しか開催されていない党代表者会
次の党大会が開催されるまでの間に、党中央委員会が必要に応じて召集することになっているのが「党代表者会」である。
党代表者会の役割については、▽党の路線と政策、戦略戦術の重要な諸問題の討議・決定▽党中央指導機関構成員の召還・補選▽朝鮮労働党最高指導機関の選挙▽党規約の修正・補充とされている。
ただ、これまでに党代表者会が開催されたのは4回(1958年、1966年、2010年、2012年)のみであり、重要事項を決定しなければならない緊急時だけに開かれる。
たとえば、「第4回党代表者会」(2012年)では、故金正日氏(2011年死去)を「永遠の総書記」と位置づけ、金正恩氏を新設ポストである党第1書記(2016年に党委員長に改称)に推戴するなど、重要な決定がなされた。
党中央委員会=党大会の役割を代行
では、最高指導機関である党大会が行われていない期間に党の活動や細かな政策決定はどこが決定するのだろうか。
そこで党大会という最高指導機関の役割を代行するのが「党中央委員会」である。
党中央委員会は、党大会と党大会の間に、党大会で決定された方針に基づいてあらゆる事業等を具体的に組織化し、各機関への指導を行うのだ。
現在の「第7期党中央委員会」は第7回党大会(2016年)で選出された「委員」と「委員候補」から構成される。
メンバー全員が参加する「党中央委員会全員会議」(もしくは党中央委員会総会)において、党内外の問題を討議、議決することになっている。
きたる来年1月の党大会開催は、8月19日の「党中央委員会第7期第6回全員会議(総会)」で決定された。
ただし、全員会議の招集は「年1回以上」とされており、こちらも頻繁に開催されるものではない。
政治局と政治局常務委員会=党の意思決定機関
そこで、全員会議が開催されていない期間には、その権限がさらに党中央委員会の内部にある「政治局」と「政治局常務委員会」に委任されることになる。
党中央委員会政治局のメンバーは「委員」と「委員候補」で構成されている。金正恩党委員長の実妹である金与正氏も委員候補に入っている。
政治局常務委員会は政治局内に設置されているが、事実上の上位機関であり「党最高指導部」と言える。
現在は、金正恩党委員長、崔龍海(チェ・リョンヘ)最高人民会議常任委員長、李炳哲(リ・ビョンチョル)党中央委員会副委員長、朴奉珠(パク・ポンジュ)党副委員長、金徳訓(キム・ドックン)内閣総理、の5人体制となっており、彼らは党政治局委員も兼任している。党大会や党中央委員会総会が開催されていない期間は、この政治局と政治局常務委員会が党内の「意思決定機関」の役割を果たすのだ。
最近では、9月29日の「第7期第18回政治局会議」では新型コロナ対策や台風、水害被害の復旧が討議され、10月5日の「第7期第19回政治局会議」では党と軍隊の主要幹部に軍事称号を授与する決定がなされている。
政務局=事実上の執行機関
さて、政治局と同様に党中央委員会の内部に設置されているのが、「党中央委員会政務局」である。前身は「書記局」であるが、2016年の第7回党大会で政務局に組織改編された。
政務局委員は現在、金正恩党委員長と9人の「党中央委員会副委員長」で構成されている。全員が政治局メンバーであることから、厳密には政治局と政務局は並び立つ関係にはないと言える。
政務局は党大会と党大会の間のすべての党活動を組織し指導する事実上の「執行機関」である。党の日常的な業務、活動の執行機関とも言える。党の人事や組織問題などを討議し、中央委員会の「専門部署」(組織指導部、宣伝扇動部、統一戦線部、国際部など)を指揮、監督することになっている。
今年8月25日の「第7期第5回政務局会議」では来年の第8回党大会開催に向けた実務的問題が討議され、9月5日の「党中央委員会政務局拡大会議」(被災地開催)では台風9号被害への対策などが決定している。
なお、党中央委員会内部には政治局と政務局のほか、党員の反党反革命的活動を取り締まる「検閲委員会」という組織もあるが、その役割からか報道に出てくる回数は少ない。
党中央軍事委員会=軍事分野の最高政策決定機関
最後に、党中央委員会と並んで重要な機関である「党中央軍事委員会」を紹介する。
党中央軍事委員会の役割は、「党大会と党大会の間で、軍事分野で提起されるすべての事業を組織指導する」というもので、「軍事分野の最高政策決定機関」と言える。
機関トップの党中央軍事委員会「委員長」は金正恩党委員長が兼任している。
また、ナンバー2である「副委員長」は、かつて党序列第3位であった黄炳瑞(ファン・ビョンソ)氏が務めていたが、同人が解任されて以降は副委員長ポストが廃止されていた。
だが、今年5月に開催が報じられた「党中央軍事委員会第7期第4回拡大会議」において、李炳哲(リ・ビョンチョル)党中央委員会副委員長がこの副委員長に就任したと報じられたことで、副委員長ポストの復活が判明している。
補足として、党中央軍事委員会は党中央委員会全員会議で組織されるため、厳密に言えば両機関は同等の位置付けではないとも考えられる。ただ、両機関名でスローガンが出されることもあることから、今回は党中央委員会と並び立つ機関として説明した。
その他には、党中央委員会や党中央軍事委員会と並んで、もう1つ「党中央検査委員会」という組織もあるが、ここは朝鮮労働党の「財務・会計検査機構」とされる。
第8回党大会では対米方針などで重大な決定がなされる可能性
上記の通り、党中央委政治局=「日常的な意思決定機関」、党中央委政務局=「執行機関」、党中央軍事委員会=「軍事分野の政策決定機関」などとそれぞれ役割を担っている。
ただ、党大会はその後の数年間にわたる方針や路線を決定することから、もっとも重要な会議であることには変わりない。
重要な決定は、党中央委員会全員会議や政治局会議、政務局会議、党中央軍事委員会会議などにおいてもなされるが、いずれも党大会で示した方針や路線から大きく外れることは通常ありえないからだ。つまり、党大会の決定内容は非常に重みがあるものとなる。
来年1月開催予定の第8回党大会では、対米方針をはじめ重要決定が多数なされるとみられ、朝鮮半島情勢において大きな転換点となるだろう。
八島 有佑