丹東の役割に注目した報告書
北朝鮮が1300キロメートルに渡っている中国との国境にはいくつもの都市がある。中国側で最大の都市は丹東だ。筆者も中国に駐在していた2000年代前半、ここを繰り返し訪問し、貿易業者から話を聞いた。
北朝鮮の経済状況を聞こうとすると、その前に「北朝鮮の美術品を買ってくれたら話す」と言われ、絵画や彫刻を見せられたことがある。ほとんどが10数万から100万円以上した。
取り引きされているのは、実は美術品ではない。これはいわば表の顔だ。北朝鮮の“あぶない品物”も活発にやり取りされている。北朝鮮の崩壊を防いでいる「闇の顔」がある。
その一端を、意外なことに英国の研究機関が報告書にまとめた。「RUSI」のシェームズ・ボーン、ゲリー・ソモビル研究員らだ。
RUSIは、190年以上の歴史を持つ英国王立防衛安全保障研究所(Royal United Services Institute for Defence and Security Studies)のことだ。2012年にはRUSI Japanも開設されている。
英国を代表する防衛および安保問題のシンクタンクであり、「より安全でより安定した世界に関する公開討論に情報を提供し、影響を与え、強化すること」(報告書より)だという。
これから2回にわたって、その報告書「『10億ドル』の国境都市」の内容を紹介したい。報告書のダウンロードはここから。
RUSIの報告書は中国海関叢書と国連貿易統計資料など、公の資料を集計したものだが、丹東だけに集中している点が新しい。
北朝鮮貿易の丹東企業は150社あり135社が現在も活動中
北朝鮮貿易の丹東企業は150社あり135社が現在も活動中
中国の遼寧省にある丹東は、鴨緑江を挟んで北朝鮮の新義州と接している。北京と平壌の中間地点にあり、国際列車が走っている。
「KOTRA(大韓貿易公社)」が2015年にまとめたデータによれば、北朝鮮の貿易の96パーセントは中国相手だ。
2014年9月から2017年2月まで丹東と北朝鮮の間に6万2500件の交易がなされ、これを通じて、29億ドル相当の取り引きが行われた。
北朝鮮との取り引きをした丹東内の企業は150に過ぎないが、彼らと北朝鮮の取り引き規模はこの期間、北朝鮮全体の貿易規模の20パーセントに達していた。
中国の企業データベースによれば150の企業のうち、閉鎖されたのは15に過ぎず(2020年1月現在)135の企業が相変らず活動しており、中国が対北朝鮮制裁を正しく履行しているか疑問だと指摘している。
相手は北朝鮮の党・軍・内閣
2012年と2013年に実施された調査によれば、丹東企業と取引をしている北朝鮮側のカウンターパートは主に朝鮮労働党(WPK)、朝鮮人民軍(KPA)、それに内閣と地方政府だった。
中国側では、多くの場合、中国の少数民族である朝鮮族が関与していた。かつて北朝鮮は、日本の朝鮮総連を貿易に利用していたが、今は中国に住む在外同胞を経済発展のため利用しているようだ。
丹東は通常の品物以外にも、国際的な制裁で禁じられている品物の通過点でもある。中国からは軍事用にも民生用にも使える品物が北朝鮮に輸出されており、米国政府や国連も把握している。
マネーロンダリングの拠点
北朝鮮はまた、丹東の金融ネットワークを利用し、制裁を逃れている。北朝鮮のマネーロンダリング窓口として核心的な役割を果たしてきた。
2017年に、米財務省は「丹東銀行(Bank of Dandong)」を制裁対象に指定した。2019年の国連専門家パネルの中間報告では、北朝鮮の2つの銀行と、4人の銀行の代表者が丹東市内で活動していたと指摘している。
(続く)
五味 洋治(ごみ ようじ)
1958年長野県生まれ。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年、韓国延世大学語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大に客員研究員として在籍。現在、論説委員。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないか』(創元社、2017年)、『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋、2018年)、近著『新型コロナ感染爆発と隠された中国の罪』(宝島社、2020年・高橋洋一らと共著)など。