与党の歴史的圧勝の中で勝利した太永浩

与党の歴史的圧勝の中で勝利した太永浩

金正恩氏の現状について言及した太永浩氏 出典『朝鮮日報

与党の歴史的圧勝の中で勝利した太永浩

 4月15日に行われた韓国の第21代国会議員選挙(総選挙)は、与党「共に民主党」の連合全体で総議席300議席中180議席を獲得。過半数を超えて、歴代最大の与党が誕生した。

 しかし、この与党圧勝の中で、最大野党「自由韓国党」に入党した元駐英北朝鮮公使太永浩(テ・ヨンホ)こと太救民(テ・クミン)がソウル特別市江南区の小選挙区から当選したのだった。“太救民”という名前は、2016年12月に脱北した際に北朝鮮からのテロに遭わないように申告した住民登録上の名前である。

 太氏は、かつて2019年2月17日に国会で記者懇談会を開き、「救援の“救”、民衆の“民”からとった“太救民”は、北朝鮮の兄弟姉妹を救うという意味でつけた名前」と説明した。

 太氏は、出馬を控えて住民登録上の名前である太救民から太永浩に再び改名しようとしたが、裁判所から3か月以上かかるという通知を受けたとの理由から太救民での出馬となった。

当選直後に江南区へ「セト民マンション」義務化を求める国民請願

 文寅在政権は脱北者に対して冷遇しているとの評価が多い中、太氏の当選は、韓国に入国した脱北者約3万人の悲願だった。

 しかし、韓国の国民の声は異なった。4月16日には、青瓦台(韓国大統領府)の国民請願掲示板に「江南区再建築地域にてセト民(セロウン《新たな》トジョン《拠り所》民の略。脱北者のこと)マンション義務比率を法制化してほしい」というタイトルの国民請願も掲載された。

 請願では、「冷戦時代の守旧的イデオロギーの障壁を超えて太救民氏を選択してくれた江南区民の高い政治意識と時代精神に敬意を表する」として、「江南区全域で進められている再建築、再開発事業において義務的にセト民マンションを入れてほしい」と主張がされた。次いで、「江南区民の高い政治意識を考慮するならば、明らかに反対は少ないだろう」とも記していた。この請願は、始まってまだ1日で9万人以上の同意を得ていた。

脱北者初の博士号取得の女性も比例代表で出馬するも落選

 北朝鮮関連の写真をアップして、「今後4年間の江南区の姿」と主張するコンテンツも少なくなかった。北朝鮮軍人の写真をアップして「こうした『リンミンボク』(人民服)が今後江南住民のファッションになるだろう」と称したり、北朝鮮の地下鉄の写真をアップして、地下鉄の先頭に表示された行先に「江南」の文字を合成したりしたものもあった。これらは、太救民だけでなく、実際は脱北者に対する差別意識が露になったものであろう。

 ちなみに今回の総選挙で、「基督自由統一党」からも比例代表で脱北女性初の博士号取得者で北朝鮮人権活動家の李エラン氏も出馬したが、当選にはいたらなかった。

宮塚 寿美子(みやつか すみこ)
國學院大學栃木短期大學兼任講師。2003年立命館大学文学部卒業、2009年韓国・明知大学大学院北韓学科博士課程修了、2016年政治学博士取得。韓国・崇実大学非常勤講師、長崎県立大学非常勤講師、宮塚コリア研究所副代表、北朝鮮人権ネットワーク顧問などを経て、2014年より現職。北朝鮮による拉致被害者家族・特定失踪者家族たちと講演も経験しながら、朝鮮半島情勢をメディアでも解説。共著に『こんなに違う!世界の国語教科書』(メディアファクトリー新書、2010年、二宮皓監修)、『北朝鮮・驚愕の教科書』(宮塚利雄との共著、文春新書、2007年)、『朝鮮よいとこ一度はおいで!-グッズが語る北朝鮮の現実』(宮塚利雄との共著、風土デザイン研究所、2018年)、近共著『「難民」をどう捉えるか 難民・強制移動研究の理論と方法』(小泉康一編者、慶應義塾大学出版会、2019年の「「脱北」元日本人妻の日本再定住」)など。

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