手術後に重体?米CNNが伝える
手術後に重体?米CNNが伝える
手術を受けたのか、重体なのか。米「CNN」テレビが20日(現地時間)伝えたニュースが世界を駆け回っている。米当局者の話を引用して、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が手術を受けた後に重体状態に陥ったとの情報があり、米政府は注視していると報じたのだ。
実は、このニュースは北朝鮮情報を専門とする韓国メディア「デイリーNK」が、内部消息筋の話として、ほぼ同様の内容を伝えていた。12日に地方で心血管の手術を受け、結果がよかったため、現地入りしていた医療陣の大半は19日に平壌に引き揚げたという。
このニュースの確認に韓国や日本のメディアは確認に追われた。韓国大統領府報道官は正恩氏の重体説について、「確認できる内容はなく、現在まで北朝鮮内部の特異な動向も把握されていない」と述べ、慎重な見方を示した。
大統領府と統一省の「微妙な食い違い」
南北関係を担当する韓国統一省の報道官は、「確認できる事項はない」とし「見守っている」と否定も肯定もせず、青瓦台とは微妙な違いをみせた。
菅義偉官房長官は21日の記者会見で「報道は承知している。引き続き、米国などと緊密に連携しながら、関連する情報の収集、分析を行っていきたい」と述べた。素っ気ない言い方のようだが、米国から何らかの情報をもらっているようにも聞こえる。
正恩氏が公式の場に姿を見せたのは北朝鮮では11日、党中央委員会政治局会議が開かれたのが最後。15日には故金日成主席の生誕記念日に当たり、毎年幹部らと、遺体が安置されている平壌の錦繍山太陽宮殿を訪問するが、今年は正恩氏の姿がなく、健康異常説が広がった。
トランプ氏のナゾの発言
米国が何らかの情報を持っていたのではないかと思えるのは、トランプ大統領の唐突な発言だ。18日の記者会見で、正恩氏から「素晴らしい書簡を最近受け取った」と述べた。ところが北朝鮮側は「書簡を送っていない」と否定した。健康異常の情報があったので、わざと反応を見たのかもしれない。
さて、肝心の正恩氏はどこにいて何をしているのか。韓国政府関係者は、匿名を条件に韓国メディアに対して「幹部とともに中部の元山にいる」と語っている。
最高指導者の健康はトップシークレット
北朝鮮から脱北した人の中で、最高位級である太永浩元英国公使は『朝鮮日報』の取材に対して、「これだけ身辺異常説が飛び交っているのに、北朝鮮側が何も反応しないのはおかしい」と語っている。
太氏は、北朝鮮内部を描いた『三階書記室の暗号 北朝鮮外交秘録』が、韓国でベストセラーになったほか、4月15日の総選挙で当選したばかり。
太氏によれば、祖父、金日成主席死去のときは死去から34時間後の1994年7月9日正午に、初めて北朝鮮メディアが死去を伝えた。父の金正日総書記が脳卒中で倒れたときも、最初の1週間は誰も気がつかなかった。最高指導者の健康問題はトップシークレットであり、「政権幹部も知らないだろう」と説明した。
そして「我々は、重体説を見守る必要がある」と述べている。
US monitoring intelligence that North Korean leader is in grave danger after surgery
体重は130kg。痛風、心臓病、糖尿病説も
正恩氏については、韓国の情報機関、国家情報院が2016年、「2012年には体重が90キログラムだったが、その後4年で40キログラム増えた」、「不眠症に悩まされており、暴飲暴食のため成人病を患う可能性が高い」と報告している。
北朝鮮に同情的な文在寅政権になり、正恩氏に関する機微な情報は伏せられるようになっているものの、持病として痛風や心臓弁膜病、呼吸器疾患、高血圧、糖尿などがあるとされている。30代後半とまだ若いものの基礎疾患に事欠かないので、新型コロナウイルスに感染し、状態が悪化した可能性も否定できない。
このまま、公の場に姿を現さなければ、騒ぎはいっそう大きくなるだろう。
五味 洋治(ごみ ようじ)
1958年長野県生まれ。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年、韓国延世大学語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大に客員研究員として在籍。現在、論説委員。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないか』(創元社、2017年)『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋、2018年)など。