党政治局会議と最高人民会議が4月11日・12日連日開催
北朝鮮で今月、朝鮮労働党中央委員会政治局会議(11日)、最高人民会議第14期第3回会議(12日)が開催された。
世界中が新型コロナウイルス流行で苦境に立つ中、北朝鮮では何が議論されたのだろうか。
長年、朝鮮近現代史を研究している康成銀氏(朝鮮大学校朝鮮問題研究センター研究顧問)に2つの会議について見解を伺った。
朝鮮労働党の会議ですべての政策が決定
Q 党の機関である党政治局会議と、国会に相当する最高人民会議の位置づけについて教えてください。
朝鮮労働党では、定例会議として数年おきに「党大会」(最高指導機関)が行われる。そしてその下に党大会の決定を実行していくための「党中央委員会総会」があり、こちらは、ほぼ毎年開催されている。直近では、2016年に「第7回党大会」、2019年12月に「党中央委員会第7期第5次総会」があった。
このように定例会議が開かれているが、情勢の変化によって討議しなければならない重要事項が出てきて次の党大会まで待つことができない場合には、党大会に準ずる会議として「党代表者会議」が開かれることになる。
さて、今回開かれたのは参加者数が少ない「政治局会議」であり、これは昨年末の党中央委員会第7期第5次総会に準ずる形で開かれたものとみられる。これも同様に、緊急に討議しなければならない重要事項があったため開催されたのだろう。
共和国は朝鮮労働党がすべての政策を決定し、その政策を国会や内閣が執行するシステムである。今回も党政治局会議で政策決定がなされ、最高人民会議でその政策をどのように実行していくかが議論されたとみられる。
北朝鮮は新型コロナウイルス対策を緊急課題と認識
Q では「緊急に討議すべき課題」とは何だったのでしょうか。
これは党政治局会議の議題を見ると理解することができる。
今回の党政治局会議では4つの議題があったところ、第1議題は「世界的に大流行する伝染病に対処し、我が人民の生命安全を保護するための国家的対策について」というものであった。やはり「新型コロナウイルス防備」がもっとも重要な問題として認識されているようだ。
この第1議題の内容を見ていくと、「昨年末に発生したウイルス伝染病が世界的に急激に拡散している現実は、短期間で解消されることはほぼ不可能である」と断言している。そして、「このような環境は共和国においても大きな障害の条件となりうる」と予見する一方で、「朝鮮は初期の段階から(新型コロナ)防備対策を徹底して行ってきた」と伝えている。
この政治局会議において、朝鮮労働党中央委員会、朝鮮民主主義人民共和国国務委員会、朝鮮民主主義人民共和国内閣の三者による共同決定書(「世界的な大流行伝染病に対処して人民の生命安全を保護するための国家的対策を一層徹底して立てることについて」)が採択された。
これに関連して、『労働新聞』(4月17日付)は、「党政治局会議で採択された共同決定書を貫徹すべき」と題した社説を掲載した。この中で、「(新型コロナ対策のため)これまで進めてきた一部の政策的課題を調整、変更する措置をとった」と伝えている。
また、「新型コロナウイルスを防ぐためにはどのような特殊も許容できなく、すべての公民たちは非常防疫事業と関連した中央指揮部の指揮と統制に無条件に服従しなければならない」と言及し、対策措置をより徹底する考えを示した。
Q 「政策的課題の調整、変更」とは具体的に何を指していると考えられますか。
現時点で具体的な発表等がないため、これは推測するしかない。
たとえば、当初は「元山葛麻海岸観光地区」建設は昨年末に完工する予定であったところ延期となり、今年の4月15日(太陽節)までと目標が変更されていた。だが、4月15日を過ぎたが今のところ完工式などが行われた旨の発表はなされていない(4月18日現在)。これも「調整、変更」の結果として、計画が変更されたのではないかと考えられる。その他様々な分野において、予算面などで微調整が行われているとみられる。
最高人民会議から見る新型コロナ対策に対する自信感
Q では政治局会議の翌日に開かれた最高人民会議では新型コロナ対策についてどのように取り扱っているのでしょうか。
最高人民会議では、第4議題(「共和国内閣の2019年事業状況と2020年の課題について」)の中の「保健部門」で新型コロナについて報告している。ここでは、「新型コロナウイルス防備措置を徹底している」とした上で、「感染者はまだ1人も出ていない」と明言した。
そして、この時期に最高人民会議を開催したこと自体にも意義がある。新型コロナウイルス流行のため、中国では「全国人民代表大会」(今年2月予定)が延期されるなど、諸外国で様々な公式行事が中止、延期となっている。その中において、共和国は最高人民会議を数日遅れではあるが(当初4月10開催を予定)問題なく開催することができた。
また、最高人民会議の様子を見ると、数百人が参加しており、参加者はマスクを使用せず、席と席の間隔も狭いという状況であった。感染リスクがあればできないことである。この様子を映像で世界に発信したことで、共和国の新型コロナ対策が万全であることを示したとも言える。新型コロナ防備に対する共和国の自信感のあらわれでもある。
Q ちなみに現在どのような新型コロナ対策を行っているのでしょうか。
たとえば、1月という早い時期に国境線を完全封鎖し、開城連絡事務所の運営を中断して南(韓国)との接触も絶つなど、人の流入を完全にストップさせている。
また、封鎖以前に共和国へ入国した者に対しては、各地に設けられた施設への約30日間の隔離措置を実施した。
さらに、国内では人民にマスク使用を義務付けている。労働新聞に掲載された写真を見ると皆マスクを着用しており、マスクを着用していないと食堂にも入れないとのことである。共和国では、国家的対策のための「組織性、一致制、義務制」が人民に徹底されている。海外諸国では政府が対策のための措置を命じても違反する人が散見されるが、共和国では命令違反することはあり得ない。
これは自由の問題と関連して批判する人がいるかもしれないが、新型コロナウイルス対策に関しては国民全員が国家の指示に従うことが重要である。それがあって初めて、国境の封鎖や隔離などが有効となる。
最高人民会議で外交分野に言及がなかった理由
Q 最後に新型コロナウイルス関連以外で伺います。今回の最高人民会議では、李洙墉氏や李容浩前外相が解任され、金衡俊党副委員長や李善権外相が新たに国務委員会委員に選出されるなど、外交関係で人事が行われました。今回の会議では対外関係については言及がなかったですが、外交面で変化はありそうですか。
具体的なことはまだ分からないが、外交ラインが大きく変わったという印象はある。対米交渉がこう着しているため、これまでの体制を一新しようという意図はあるかもしれない。
また、今回の最高人民会議で対外関係が議題に上がらなかったのは、討議すべき重要テーマはあくまで「新型コロナウイルス対策」であったからだろう。そもそも、共和国側の対米交渉の方針(「次は米国がシンガポール合意に基づいて行動すべきであり、朝鮮側は妥協しない」)は昨年から変わっていないため、討議する必要性もないと言える。
康成銀朝鮮大学校朝鮮問題研究センター研究顧問
1950年大阪生まれ。1973年朝鮮大学校歴史地理学部卒業。朝鮮大学校で歴史地理学部長、図書館長、副学長、朝鮮問題研究センター・センター長を歴任。現在は同センターで研究顧問を務めている。
八島 有佑