五輪メダリストには兵役免除の“恩恵”
五輪メダリストには兵役免除の“恩恵”
東京五輪サッカー年齢問題で韓国が“不公平”を強調したワケ 韓国サッカーと徴兵制(1/2)の続き。
韓国で兵役免除が認められるには、「国外で永住権を取得した」、「身体的な障害をもつ」、「北朝鮮から亡命した」などのいくつかの条件がある。その中でスポーツ選手の多くが目指すのが「国際的なスポーツ大会での優秀な成績」という条件だ。
ここでいう優秀な成績はオリンピックでのメダル獲得(3位以上)、アジア競技大会での金メダル獲得(1位)を指す。韓国でオリンピックに出場できるかどうかは、選手キャリアに「オリンピアン」が加わるかどうかの単純なことだけではない。兵役免除のチャンスを得られるかどうかにつながっている。
実際には、兵役に代わる4週間の基礎軍事訓練と544時間のスポーツ奉仕活動を行うことで免除となる。それでも2年間の軍隊生活が1か月に短縮されることを考えればその「恩恵」は大きい。そのため韓国のスポーツ史において、兵役逃れを巡る不正や疑惑は少なくない。かつて欧州で活躍したパク・チュヨン(現「FCソウル」)は、「ASモナコ」時代に取得した10年間の長期滞在ビザを兵役先送りに利用していたことが判明し、国内メディアの激しいバッシングを受け謝罪会見に追い込まれている(その後、ロンドンオリンピックで銅メダルを獲得して兵役免除に)。
執念が感じられたロンドン五輪の銅メダル
筆者はこれまで、兵役免除に懸ける韓国選手の強い思いが伝わるサッカーの試合を何度か観てきた。
印象に残るのは2012年ロンドンオリンピックの3位決定戦。歴史に残る日韓戦だ。1968年メキシコオリンピック以来の日本のメダル獲得を願ってやまなかったが、韓国選手の気迫と銅メダルへの執念がそれを上回ったように感じられた。決勝ゴールを決めたのは前述のパク・チュヨンだった。
記憶に新しい2018年のインドネシアでのアジア競技大会の決勝もそうだ。これも日韓対決で、東京オリンピックへの強化の一環として21歳以下の国内選手のみで出場した日本に対し、韓国は兵役を終えてない海外の所属選手を含む年齢制限なしのメンバーで臨み、延長戦を制して金メダルを勝ち取った。この大会で注目を集めたのが、現在イングランドのプレミアリーグで活躍するソン・フンミン(「トッテナム」所属)。当時、所属リーグが大事な時期にもかかわらず、チームはソンのアジア大会出場を容認した。兵役義務が残る彼の今後のキャリアを気にかけていたからだ。
兵役免除の恩恵を受けた選手は、サッカーだけに打ち込めるこの先の無期限の自由が約束される。兵役免除となったソン・フンミンの選手としての価値は高騰したのは言うまでもない。獲得を狙う強豪チームの情報が飛び交うようになった。
兵役免除への希望、選手の士気保たれる
兵役免除への希望、選手の士気保たれる
東京オリンピックに向けた23歳以下の韓国サッカー男子代表は、今年1月にタイで開催されたアジア最終予選で優勝し、本大会への出場権を獲得している。メンバーのうち1997年生まれの選手は11人。チームの中心を担う。上々ムードでメダル獲得の期待値も高く、兵役免除の希望もうかがえる。今回の「年齢問題」に敏感にならざるを得なかったことが理解できよう。
FIFAは4月3日の声明で、「東京五輪の延期による対応策を検討する作業部会が、従来通り1997年1月1日以降に生まれた選手が出場できるようにすべきと理事会に勧告した」と発表した。今後、理事会の承認を経て正式に決定することになるが、韓国選手の目標設定や士気はとりあえずは保たれそうだ。
北 幸多(フリーライター)