マスク社会主義の批判も

韓国と北朝鮮で起きている「マスク大乱」(1/2)の続き。

 マスクの配布が行われて皮肉なことも起きている。薬局で並ぶ時間が長いことから、民間で流通するマスクに人気が集まり、小売価格が5割増しに跳ね上がった。

 そもそも、マスクは新型コロナウイルス予防に万能ではない、とされている。手洗いの方が重要と指摘する専門家も多い。しかもマスクは、医療関係者に優先配布すべきであり、マスク販売を行政が管理するのはいきすぎとの批判も高まっている。「マスク配給は文在寅式社会主義」『東亜日報』との厳しい声もある。

 新型コロナウイルスの検査を徹底させ、一定の評価を受けた文政権は、マスク対策では、つまずいたようだ。

マスクを奨励しながら指導者・金正恩委員長はつけず

マスクを奨励しながら指導者・金正恩委員長はつけず

平壌総合病院の着工式(提供「コリアメディア」)

 北朝鮮でも根強いマスク信仰がある。医薬品が不足しており、医療体制に不備の多い国だけに、マスクに依存するしかない事情もある。

 国営メディアは国民に対し、屋外でのマスクを着用するよう呼びかけている。マスクを着用しないのは「国の前で罪を犯すこと」だと仰々しく宣告している。

 ところが最高指導者の金正恩朝鮮労働党委員長は、まったくマスクをつけない。強靱なところを見せようとの演出なのか、それとも自分は感染しないという自信があるのか。なんとも理解しがたい。

 3月17日、平壌中心部に建設される「平壌総合病院」の着工式に正恩氏が出席したと報道された。演説で「人民大衆第一主義」を強調。「敵対勢力の制裁と封鎖」の打破を訴え、10月の党創建75周年までに病院を完成させるよう指示したが、このときもマスクはつけていなかった。

韓国政府が北朝鮮へマスク支援の噂

韓国政府が北朝鮮へマスク支援の噂

NAVERのショッピングモールよりYuhan Kimberlyの使い捨てマスク

韓国政府が北朝鮮へマスク支援の噂

 そんな中、「北朝鮮中央テレビ」に2月17日、韓国製のマスクをつけた医療スタッフが登場し、大問題になっている。大写しになったマスクに「Yuhan Kimberly」というロゴが入っていた。これは韓国の会社だ。

 このため、韓国内でマスクが足りないのは、文在寅政権がひそかにマスクを北朝鮮に送ったからだなどという根拠不明な噂も飛び出している。Yuhan Kimberlyによれば、このマスクは25年前から販売しているが、北朝鮮に輸出されたことはなく経緯は分からないと韓国「KBS」テレビの取材に答えている。

あふれる韓国製の品物

 政府機関や人道支援団体も、韓国製のマスクを北朝鮮に送ったことはないと否定しており、真相は藪の中だ。北朝鮮は核、ミサイル実験のため、国連安全保障理事会から制裁を受けている。輸出できる品物には厳しい制限がある。マスクはこの対象に含まれていない。

 一部の国際保健医療NGO(非政府組織)が、日本製の手術用マスクを送ったことは確認されているが、韓国産はなかった。そもそもマスクに限らず、北朝鮮には韓国製品があふれている。化粧品、DVD、衣料品などだ。中国など第3国経由とみられる。新型コロナウイルス騒ぎは、図らずも南北間での水面下の物流を浮かび上がらせたようだ。

五味 洋治(ごみ ようじ)
1958年長野県生まれ。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年、韓国延世大学語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大に客員研究員として在籍。現在、論説委員。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないか』(創元社、2017年)『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋、2018年)など。

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