批判されることは多いのにあまり知られていない朝鮮学校
批判されることは多いのにあまり知られていない朝鮮学校
今年2月、お笑い芸人であるウーマンラッシュアワーの村本大輔氏が広島の朝鮮学校で独演会を行ったことで朝鮮学校に注目が集まった。
大半の日本人は、朝鮮学校になじみがないと思うので簡単に説明しておくと、朝鮮学校は在日朝鮮人が通う学校であり、朝鮮大学校を含めると全国に98校(4校休校中)ある。在日韓国人が通う韓国学校が全国に6校しかないことを考えると、その数は意外に多く感じられるかもしれない。
さて、全国各地にある朝鮮学校だが、日本人の認知度や関心は低く、ほとんどの人は名前や存在を知っている程度だろう。朝鮮学校を「異質な空間」と認識している人が多いためか、取材の中で「朝鮮学校は日本人立入禁止なのでは?」などの噂を耳にすることまである(当然これは誤りであるし、各地の朝鮮学校で行われる文化祭や講演会などに地域住民が参加している)。それを話している人に悪意があるわけではなく、噂の中にはそれっぽく聞こえるものもある。
そこで、今回はそのような噂の真偽を確かめるため、朝鮮大学校で長年教鞭をとっている金哲秀氏(朝鮮大学校朝鮮問題研究センター副センター長)に話を伺った。
朝鮮学校では外国文化は禁止?実際のところを朝鮮大学校の先生に質問
Q 特別に関心がある人を除くと、一般の日本人は朝鮮学校や在日朝鮮人についてあまり関心がないというか、特殊な存在と捉えているのかもしれません。
日本の方は、日本社会において在日朝鮮人をごく一部の少数派と考えているところがあります。でも、朝鮮籍、韓国籍の在日朝鮮人は約48万人(朝鮮籍約3万人、韓国籍約45万人)もおり、帰化した人やダブルの人を含めると大体100万人に達します。山手線に乗っていたら1車両に1人いる計算です。
Q 朝鮮学校が心理的に遠い存在である上にそれほど情報がないためか、巷では様々な噂が流れ得います。たとえば、「朝鮮大学校の学生が、外国語音楽のカセットテープやファッション雑誌を所持していると没収される」という話を聞いたことがありますが、これは本当ですか。
確かに私が学生期を過ごした1980年代は資本主義文化として外国文化が敬遠されることはありました。日本や米国の文化よりも朝鮮の文化を身に着け、それを大事にしていこうという風潮が非常に強かったと思います。
ただ、今は海外の文化などは広く許容されるようになり、外国文化だから敬遠するということはなくなりました。もちろん学生が外国語音楽を聞いていてもファッション雑誌を読んでいても、それをとがめたり、「好ましくない」と言ったりすることはありません。
しかし一方で、外国文化がすべてよいと考えているわけではありません。退廃した文化に対しては批判的ですし、南北を問わず自民族の文化に愛着を感じている学生も多くいます。
Q 「朝鮮学校の学生は、米国企業の「iPhone(アイフォーン)」や韓国企業の「LINE(ライン)」を使ってはだめなのではないか?」という声もありました。確かに平和条約が締結されるまで朝鮮戦争が続いているという認識の下だと、ある意味では敵国の製品を使用することは「いけないこと」なのかなとも思いますが。
米国や韓国の製品を禁止するなんてことありませんし、そもそも学生どころか教員がiPhoneやLINEを使っています。日本人と同様、どこの国のものであっても、「よいものや便利なものを使う」というスタンスです。どこの国の製品だから使ったり使わなかったりするということはありませんし、それは学校としても学生としても同じです。当然、学生が所有している製品がどこの企業のものであれ、それを理由に取り上げるなんてことはありえませんよ。むしろ、そのような疑問が日本人の中にあるのだと聞いて驚いています。
Q 朝鮮学校に対して、「閉鎖的で独自文化が築かれている」という認識を持っている人は多いかもしれません。
朝鮮学校のことをよく知らない方は、朝鮮学校を治外法権か何かだと考えているのかもしれませんね。以前、日本の大学で講演した際、学生から「朝鮮大学校の売店などでは通貨はどこの国のものが使われているのですか?」という質問を受けて驚いたことがあります。もちろん学校で使用しているのはウォンではなく円ですよ。朝鮮大学校は日本にあるのだから当然です。
また、朝鮮学校を閉鎖的だと考えている人も多いかもしれませんが、他大学との交流もありますし、イメージにあるような閉ざされた空間ではないです。でも日本人が朝鮮学校に対してそのような疑問を持っているというのは興味深いです。
今回、金哲秀氏に答えてもらった質問は、いずれも朝鮮学校のことを多少でも知っている人なら「まさかそんな疑問が…」と思うものだったかもしれない。
だが、日本人がそのような視点で朝鮮学校を見ている人も少なからずいるというのは非常に興味深いことである。
金哲秀氏
1965年東京生まれ。1988年朝鮮大学校政治経済学部卒業、90年同校研究院卒業。現在、朝鮮大学校朝鮮問題研究センター副センター長、在日朝鮮人関係資料室長を務める。
八島 有佑