最大の投機対象「平壌アパート」の秘密
最大の投機対象「平壌アパート」の秘密
前回は、カネを自由に使う平壌の「赤い貴族たち」の実態を伝えたが、今回は、平壌で最大の投機対象となっている、アパートについて書いてみよう。
チュ記者の新刊、『平壌資本主義百貨全書』にも詳しく書かれている。
1950~53年の朝鮮戦争で、平壌には40万発を超える爆弾が投下され、町は壊滅した。
この後、アパートが後に相次いで建設された。国家の政策として、1世帯1部屋が供給されたという。基本的にガス、電気、水道料代を支払えば、一生使い続けることができる。
しかし1990年代の食糧危機、いわゆる「苦難の行軍」の時期を境に、住宅供給システムが崩壊し、家の私的な売買が活発化した。基本的に家の売買はできないが、居住権を売買するのだ。
アパートは基本的に増築
2000年代に入って、経済的に余裕のある市民が現れ、積極的にアパートの居住権を買うようになった。このため、古いアパートの上に3階ほど付け加える「リモデリング」が流行した。
古いアパートは鉄筋がしっかりしており、特に問題はないようだ。しかし、意外なことに平壌では、上の階には人気がない。というのはエレベーターがない場合も多く、あっても電気不足で止まってしまうことがままあるからだ。
そうなると、食料や暖房用の石炭を持って階段を上らなくてはならない。このため、平壌では高層階ほど人気がなく、金持ちが低層階を占領しているという皮肉な現象が起きている。
住宅建設には「速度戦青年突撃隊」を投入
住宅建設には「速度戦青年突撃隊」を投入
こういったアパートの増築や、新たな高層アパート建築には、金日成社会主義青年同盟という組織の傘下にある、「速度戦青年突撃隊」が投入される。
基本的には軍人であり、食事だけ与えれば作業に当たってくれる。建物だけをつくり、内部の装飾は、部屋居住権の購入者が自分で行う。
突撃隊の幹部には、給与の代わりに部屋が与えられるため、これを売れば巨大な利益になる。最近では、最高学府「金日成総合大学」を卒業した若者が、部屋目当てに突撃隊の幹部になるケースが目立つという。
アパートの価格は急騰中
2000年代の初期に建築されたアパートは、1部屋5000ドル(約50万円)程度だったが、2018年には、30万ドル(約3000万円)ほどに跳ね上がっている。
大理石を使い、中国のアパートの設計図をそのまま使ったアパートもある。平壌には、日本でも有名になった高層アパート群、「未来科学者通り」と「黎明通り」がある。
未来科学者通りは、大同江沿いに、朝鮮労働党創立70周年の2015年に完成した。53階建ての超高層住宅をはじめ、数千世帯が入居している。
360 Video – Future Scientist Street 2015 December
黎明通りは、黎明通りは金日成総合大学の研究者らの住宅として、2017年に70階建てのマンションなどが造られた。これ以降、平壌の不動産ブームは一段落しているという。
こういったアパートには大抵、「革命都市 平壌」というスローガンが書かれているが、チュ・ソンハ記者は、この本の中で、
「平壌は、富者になりたいという夢が支配する『欲望の都市』になった」
と書いている。
アパート居住権の活発な取引は、市場化が拡大している平壌を象徴している。
(続く)
五味 洋治(ごみ ようじ)
1958年長野県生まれ。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年、韓国延世大学語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大に客員研究員として在籍。現在、論説委員。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないか』(創元社、2017年)『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋、2018年)など。
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