北朝鮮との関係緩和を受けてK-POP・自転車競技・トレッキングコース・生態系活用で集客強化
韓国北東部に位置する江原道(道は県に相当)が、観光に力を入れている。これまでは、北朝鮮に接した「安保観光」を売り物にしていたが、南北の緊張緩和にともない、「平和地域観光」にイメージチェンジを図っている。南北の交流が進めば、「未開地」北朝鮮への観光に注目が集まることが予想されるため、先手を打つ狙いもある。
江原道で2018年11月に開かれたDMZ活用シンポジウムに招待されたのを機会に、道庁の担当者から話を聞いた。
江原道は韓国の北東部に広がる、春川市を中心とした行政区だ。約150万人が居住する。北朝鮮と接しており、朝鮮戦争(1950~53年)時には、激しい戦闘が繰り広げられ、全国でもっとも大きな人命被害が出た。
朝鮮戦争が休戦となった後も、南北の緊張関係の影響を受けて十分な経済発展を遂げられなかった。観光も朝鮮戦争の跡地や、非武装地帯(DMZ)と呼ばれる北朝鮮との境界地域の自然を楽しむ安保観光が中心だった。
K-POPで人集め
しかし、今年に入って江原道平昌で冬季五輪が開催され、認知度がアップした。さらに、南北首脳会談が3回も開かれるなど、和解ムードが広がっている。このため、地元の江原道庁は、10月、新たに既存の部署を統合して「平和地域発展本部」を組織し、景観整備、宿泊施設、南北交流などを総合的な対応に乗り出した。
基本的なコンセプトは、DMZをPLZ(Peace Culture Zone)と呼び変え、内容を充実させることだ。その手始めとして毎週土曜日に、江原道内の鉄原、高城など5つの郡で、新進のK-POPスターの公演を開いている。
コンサートの企画を担当しているオム・ギョンミンさんは、「主なターゲットは、周辺に駐留する韓国の若い軍人」という。「今はデビュー間もない女性グループを中心に出演してもらっていますが、将来的には有名歌手も招き、日本からも観光客を集めたい」とプランを話す。
軍事地域でサイクリング競技も
PLZ周辺では、自転車競技も行われている。青少年向けのものと、夏に開く国際大会があり、国際大会には日本からも参加する。
コース周辺には韓国軍の基地も多く、統制地域になっているが、自然が楽しめるように、軍当局と相談して毎年新たなコースを開発するという。国際大会のホームページはこちら(韓国語のみ)。
これとは別に、PLZ周辺にトレッキングコースの開発も進めている。北朝鮮が住民の統制を目的に建設した朝鮮労働党事務所や、韓国への侵入用に掘った長さ3500メートルのトンネル、鶴をはじめとする渡り鳥の渡来地を組み合わせている。
課題は宿泊施設だ。今後、海外観光客向けの手頃な価格の宿泊施設の整備を図るという。ルート図と、主な宿泊施設は、以下からダウンロードできる。
강원도 안보현장 체험코스(韓国語のみ)
江原道観光マーケティング課のイ・ユソクさんは、「戦争の跡地を訪ねるダークツーリズムという印象が強かったが、これからは北朝鮮側の史跡も組み合わせ、平和を体験できる地域としてアピールしたい」と話していた。
写真4枚 いずれも江原道庁提供
五味 洋治(ごみ ようじ)
1958年長野県生まれ。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年、韓国延世大学語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大に客員研究員として在籍。現在、論説委員。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないか』(創元社、2017年)『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋、2018年)など。
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