朝鮮学校「無償化」裁判、東京高裁原告の請求を棄却
朝鮮学校「無償化」裁判、東京高裁原告の請求を棄却
10月30日、国が朝鮮学校を高校無償化の適用対象から除外したのは違法だとして、東京朝鮮中高級学校の元生徒が国に1人あたり10万円の国家賠償を求めた訴訟の控訴審判決が東京高裁であった。阿部潤裁判長は、原告の請求を棄却した東京地裁判決を支持し朝鮮学校は敗訴した。
地裁の判決は早かったが高裁も早く午後4時開廷からわずか3分後に原告敗訴を伝える原告弁護団の2人が苦渋に満ちた表情で「不当判決」の垂れ幕を掲げ無数のフラッシュが焚かれた。
この日は90席の傍聴席に対して889人が傍聴券を求めて列を作り約10倍の倍率だった。
朝鮮学校への高校無償化を求める裁判は、2013年1月に大阪、愛知で提訴されたのを皮切りに、同年8月に広島、12月に九州、2014年2月に東京で提訴されている。
現在、大阪、愛知、広島、東京で地裁判決が下されており、大阪地裁のみ原告の請求を認めた。その後、控訴審ではすでに大阪高裁が、地裁判決から逆転して原告の請求を棄却していることから、高裁での原告敗訴は全国で2例目となった。
判決当日行われた集会では弁護団が高裁判決を振り返る
判決当日行われた集会では弁護団が高裁判決を振り返る
東京高裁で判決が下された同日夜、「朝鮮学校の子どもたちに笑顔を!!東京朝鮮高校生『無償化』裁判高裁判決集会」が「北とぴあ」(東京都北区)の1300人収容できるさくらホールで開催され、主催者発表で、学校関係者や支援者など約1100人が参加した(主催 東京朝鮮高校生の裁判を支援する会、朝鮮学園を支援する全国ネットワーク、フォーラム平和・人権・環境、東京朝鮮学校オモニ会連絡会、東京朝鮮中高級学校)。
壇上に立った7人の原告弁護団は、集まった参加者に対して謝罪した上で東京高裁判決について次のように説明した。
文部科学大臣による朝鮮学校の就学支援金不指定処分通達書には、「規定ハ(注1)の削除」および「13条(注2)不適合」という2つの理由が並列に記されていた。
注1:高等学校等就学支援金支給法施行規則第1条第1項第2号ハ
注2:「規定ハ」に関わる規程の13条
地裁判決では、「13条不適合」に基づく処分が適正か否か判断され、もう1つの理由である「規定ハの削除」についてはまったく議論されなかった。その結果、朝鮮学校と朝鮮総連の関係性などを理由に朝鮮学校が適正に運営されているかどうかの疑いが払拭できないため、「13条不適合」とした文部科学大臣の処分は、裁量権の範囲からの逸脱、または、その濫用があるものとは認められないとされた。
朝鮮学校無償化訴訟: 元生徒側の控訴を棄却 東京高裁
控訴審で弁護団は、「上記2つの理由が両立しないこと」および「朝鮮学校を不指定処分とした真の理由は『規定ハの削除』であること」を主張したところ、裁判長は、2つの理由の関係性に重大な関心を示し、国側に2つの理由の関係性について説明を求めた。弁護団は、裁判長が2つの理由の関係性を正確に理解しており、不指定処分の理由が「規定ハの削除」でしかありえないと考えていると確信した。
本日の判決で裁判長は、不指定処分の理由が「規定ハの削除」である場合は根拠規定を削って不指定としているのに対し、不指定処分の理由が「13条不適合」である場合は根拠規定に基づき不指定としているため、2つの理由が論理的に両立しないことを認めた。この点では、弁護団の主張が認められた。
次に問題になるのは、「規定ハの削除」、「13条不適合」のどちらが、不指定処分の真の理由となるかである。真の理由となるのは、先に効力を生じた方である。弁護団は、「規定ハの削除」が効力を生じた日は官報に公告された2013年2月20日であり、「13条不適合」が効力を生じた日は不指定通知が届いた同年2月21日であるため、「規定ハの削除」が真の理由であると主張した。
この問題について裁判長は、「規定ハの削除」が効力を生じたのは2月20日であるが、「13条不適合」に関して、不指定通知が届く前に文部科学省内部で行政処分が成立していたと考えることができ、不指定処分の真の理由は「13条不適合」であると結論を下した。
その後、裁判長は、地裁判決と同様、朝鮮学校の適正運営の問題を挙げ、文部科学大臣の判断は広範な裁量の内で不指定処分が不合理であるとまでは言えないとし、原告の請求を棄却した。
法律審である最高裁へ
弁護団は「原告の皆さんと相談した上でだが、最高裁の判断を仰がなくてはならないと思う。上告審は法律審と呼ばれ、判例違反、憲法違反など法律的にどこがおかしいかという点に絞って議論される。この高裁判決は単に朝鮮学校を差別したというだけではなく、最高裁の判例に違反する議論を含んでいる。『行政処分の成立と効力』について議論はあるが、今回の不指定処分が省令を削除した2013年2月20日以前に成立したということはありえない。これは最高裁の判例である。上告審では、法律論に絞って理論的な側面から国側の主張の矛盾点を明らかにし、合わせて朝鮮学校生徒の学ぶ権利が行政の恣意的な判断によって奪われたということを改めて主張したい」と上告審での方針を述べた。
同様の裁判は、全国5か所で起こされているが、唯一地裁判決が出ていない福岡地裁小倉支部での訴訟は来年3月14日に判決を予定している。
立山達也