終戦宣言、南北経済協力には冷ややか
今年2回目の南北首脳会談が9月18日から開かれ、19日には平壌共同宣言が発表された。「半島非核化に向けた重要な合意」、「南北は新たな時代に入った」など高く評価する声とともに、「単なる南北政治ショー」など批判する声も聞かれる。
では、このような一連の動きを、当事者の韓国国民はどう見ていたのだろうか。その一面をうかがうことができる韓国のポータルサイト「ネイバー」のニュース・アクセスランキングおよび共感ボタンのクリック数を紹介してみたい。
下に列挙したのは、首脳会談が開催される前の9月16日から29日までの約2週間、1日あたりもっともアクセスが多かった南北首脳会談および北朝鮮関連ニュースの見出しと、そのニュースについた共感ボタン数だ。
韓国ネイバーの「共感ボタン」は、「悲しい(スルポヨ)」「ほのぼのする(フンフネヨ)」など5つに分かれているが、主に押されるのは「いいね(チョアヨ)」か「頭にくる(ファナヨ)」なので、今回はこの2つだけを取り上げた。クリックするには、やっかいな会員登録が必要なので、外国人はほぼ排除されているとみていいだろう(※「ファナヨ」は「イライラ」と表記)。
■9月3週目
・16日(日)「平壌首脳会談の訪北団に李在鎔を含む特別随行52名」(『聯合ニュース』)いいね2180、イライラ6142
・17日(月)「先発隊が見た北 道路は劣悪 平壌は大忙し」(『ノーカットニュース』)いいね863、イライラ2343
・18日(火)「文大統領と金正恩、平壌で抱擁 朝鮮半島平和、非核化旅程突入」(聯合ニュース)いいね4415、イライラ6020
・19日(水)「平壌合同宣言 金正恩が警護の心配にもかかわらず答礼訪問、北指導者初めてソウルへ」(聯合ニュース)いいね5498、イライラ2436
・20日(木)「文大統領・金委員長、白頭山天地をともに散策」(『news1』)いいね6429、イライラ3092
・21日(金)「青瓦台、北は1泊追加を提案も、わが方の事情で受けず」(聯合ニュース)いいね3316、イライラ2719
・22日(土)「変化する平壌、携帯あふれる街角、ナイキ履く学生、明るくなった広告」いいね1718、イライラ4202
■9月4週目
・23日(日)「青瓦台、金正恩委員長 笑顔満開びっくり指ハート写真公開」(newsis)いいね3851、イライラ3580
・24日(月)「秋夕、休日は一日だけの北韓、南北秋夕の風景はどう違う?」(news1)いいね88、イライラ621
南北首脳会談前までは批判的なイライラが多い
・25日(火)「文大統領・トランプ『制裁は継続、北非核化すれば明るい未来に』」(『edaily』)いいね2706、イライラ893
・26日(水)「金正恩が核を放棄?米懐疑に対して説得にでる文大統領」いいね3986、イライラ5781
・27日(木)「金正恩ソウル訪問時に終戦宣言?文大統領の『後続ロードマップ』に注目」(news1)いいね1945、イライラ2857
・28日(金)「文大統領のニューヨーク歴訪のウラ話、青瓦台が公開した未公開ショット」(『京郷新聞』)いいね3289、イライラ2417
・29日(土)「南北、東西海岸鉄道秒読み?残る課題は」(newsis)いいね1146、イライラ3970
南北首脳会談が始まるまでは、ほぼ共通して「イライラ」が多く、期待よりも否定的な見方が多い。18日に文大統領が平壌を訪問、金正恩委員長の出迎えを受けたことを伝える記事「文大統領と金正恩、平壌で抱擁 朝鮮半島平和、非核化旅程突入」(聯合ニュース)でも、いいね4415に対してイライラ6020。記事のコメント欄を見ると、次のようなコメントが共感を得ている。
・shss****「統一とは赤化統一、狂ったヤツら」(賛成9、反対0)
・jhpe****「経済は底辺なのに、一日中、北韓行ったと騒ぐわが国の水準はやばい。北韓行って米国とうまくやる自信あるのか?中国のようにぶつかれば正気に戻る」(賛成13、反対1)
・exre****「北韓がそんなに良ければそっちに住めよ」(賛成7、反対0)
・sysy****「一時、みんな騙されて一国のリーダーを間違って選んだ。みんな正気になろう、このまま行けば北韓のようになるぞ、南韓も」(賛成17、反対2)
だが、翌19日の「平壌合同宣言 金正恩が警護の心配にもかかわらず答礼訪問、北指導者初めてソウルへ」では、いいねのクリック数がイライラを逆転。20日の「文大統領・金委員長、白頭山天地をともに散策」、23日の「青瓦台、金正恩委員長 笑顔満開びっくり指ハート写真公開」でも、肯定的な評価をする人がグンと増えた。肯定的なコメントは次のようなものだ。
・kcjp****「金正恩は留学派なのでオープンマインドだね、すばらしい友人、ナイスショット」(賛成7、反対5)
・kuma****「ここは文大統領を批判する奴が多いが、韓国党支持率が底辺なのを見れば、韓国保守派は看板下ろして消えろ」(賛成10、反対9)
・btg7****「必ず来てほしい、歓迎します。平和のために努力する2人の首脳、韓民族だった私たち、今、和解して仲良く過ごそう」(賛成15、反対8)
白頭山登頂でいいねが逆転。文大統領の支持率も回復するも北肯定のマスコミへ嫌悪感も
白頭山で南北首脳が親しく手をとる映像などがテレビで放映されるに従って賛成する人が増え、また肯定的な評価を裏付けるように、6週連続で低下していた文大統領の支持率が首脳会談後に急上昇、60%を超えた。南北首脳会談の開催が、大統領の支持率上昇に大きく寄与することは、これまでのケース(金大中政権や盧武鉉政権)からも明らかだが、今回ももちろんその例外ではない。
その一方で、26日の「金正恩が核を放棄?米懐疑に対して説得にでる文大統領」や29日の「南北、東西海岸鉄道秒読み?残る課題は」に対しては、いいねよりもイライラが多く、国内経済が悪化するなか、終戦宣言や南北経済協力に前のめりな文大統領を冷ややかに見ている国民も依然として多い。
・kjy8****「このごろ放送に北韓が映れば、わが国よりみんないいもの食べて、いい暮らしだ、ふざけているのか」(賛成3、反対0)
・ryua****「大きな政策は、国民投票にかけて決めろ」(賛成8、反対1)
・ltly****「文政権、落ち着け、まだ統一もされてないし、核も保有するというのに、もう当てにしているのか。自分の政府がどうなるか怖いのか?弾劾されるのが怖いのか?」(賛成11、反対1)
また、南北首脳会談とは別に、北朝鮮の実情を伝える記事も2つがランクインしているのが目につく。
22日「変化する平壌、携帯あふれる街角、ナイキを履く学生、明るくなった広告」と24日の「秋夕、休日は一日だけの北韓、南北秋夕の風景はどう違う?」がそれだ。政治的な内容を扱っているわけではないが、2つとも「イライラ」が「いいね」を圧倒しており、これは、北あるいは積極的に北を評価しようとするマスコミに嫌悪感を抱いている韓国人が多いことを表しているのではないだろうか。
・grac****「平壌は演出された都市、計画された都市、演劇の舞台なのを知らないのか?」(賛成13、反対1)
・soul****「違う都市、見せろよ、それでもそういう暮らしなのか、違うだろ。彼らはかわいそうな暮らしをしててる、おそらく靴下もないよ。彼らの人権は?胸が痛い、ショーのようで」(賛成13、反対1)
・clas****「ナイキの売り場がない国で、米国製品が通りを行き来とかまったく笑わせる、全部中国製品の密輸だ」(賛成14、反対0)
手放しで評価しているわけではないものの、南北首脳会談に対する韓国国民の評価はまずまずといえそうだが、韓国保守派の間では「北に大きく譲歩した」、「民族反逆者と協調した」など批判の声が大きい。
韓国人は「平和という言葉に騙される」韓国保守重鎮の指摘
保守派の重鎮、趙甲済氏は25日、「韓国人がかように簡単に騙される10の理由」を自らの主宰するサイト(趙甲済ドットコム http://www.chogabje.com)に投稿、北に騙される韓国人の特性(性格)として、「いい話を信じる」、「民族を全ての価値に優先させ、国家、自由、国民、法治までも民族という名で無視する」、「平和という言葉に騙される」、「偽善的な名分論に溺れ、結局は生活の基盤を喪失する」などをその理由に挙げている。
今回の南北首脳会談が、南北新時代を告げる重要なステップとして後に評価されることになるのか、それとも単なる政治ショーに終わるのか、その判断を下すにはもう少し時間がかかることになりそうだ。
熱川逸(フリーライター)