韓国メディアが拘束邦人の名前を報じる

韓国メディアが拘束邦人の名前を報じる

北朝鮮では観光地化されている板門店以外での軍人の撮影はご法度

 日本人の男性が北朝鮮で逮捕され、抑留されていると報道されている。韓国のネットメディア「NEWSIS」は、滋賀県出身の映像クリエーター、スギモトさん、39歳と伝えた。

 詳細は不明だが、この記事は、関係者の話として観光目的で北朝鮮に入った後、南浦市の軍事施設を撮影したという疑惑で逮捕されたとしている。

 この関係者は、「日本政府が抑留された日本人の安全確保を最優先に考慮し、北朝鮮政府と交渉中」と話したという。

 日本政府は、この男性の逮捕拘留状況、理由に関する情報も、在日本朝鮮人総連合会(総連)等を通して、収集しているという。

 北朝鮮は1999年、日本の元新聞記者をスパイ疑惑で逮捕し、2年余りの間抑留したことがある。

英国系のツアーに参加か

 スギモトさんは、欧州で北朝鮮向けツアーを催している英国人が主催する「Young Pioneer Tours」のツアーに参加したという。

 この会社は、昨年北朝鮮で交流中に死亡した米国人学生、オットー・ワムビア氏を北朝鮮に送ったことで知られる。

 この会社のホームページによると、本社は中国南部の深センにあり、北朝鮮だけではなく、世界各地の辺境ツアーを実施している会社だ。私の電子メールによる問い合わせには、今のところ答えていない。

工業地帯、軍事基地で知られる場所

工業地帯、軍事基地で知られる場所

金日成主席の代表的な建築物とされる西海閘門(ソヘカンムン)出典 南浦特別市「ウィキペディア」

 そもそも、南浦とはどんな町なのか。

 南浦は外国人には簡単に公開されない場所だ。1894年の日清戦争で日本軍の兵站基地となり、港が整備され、鉄道が敷設されて急速に発展した。日本人もかなり多く住んでいた。

 最大の観光地は西海閘門だ。ソヘ・カンムンと読む。大同江の河口に建設された、全長8キロメートルの開閉式ダムだ。

 氾濫しやすかった大同江に海水が逆流するのをせき止め、農業用水や上水道として使えるようにし、川の対岸にも渡りやすくした。金日成主席の代表的な建築物として、北朝鮮の印刷物にしばしば登場している。

 平安南道から南浦直轄市にかけては無煙炭が豊富にあり、火力発電所もある。

 港や高速道路も整備されているため、このため南浦周辺には、北朝鮮屈指の大工業地帯ができた。

 北朝鮮の労働運動の代名詞である「千里馬運動」の発祥地、千里馬製鋼所をはじめ、大安ガラス工場、大安重機械連合企業所など、北朝鮮を代表する工場がある。

 年産3万台のトラクターを生産する金城トラクター工場、勝利自動車工場、南浦通信機械工場、南浦造船所、大安ガラス工場もある。

 南浦には軍事施設も多いとされる。

 ミサイル生産施設とされる台城機械工場がその代表格だ。衛星写真からこの工場の入り口には規模の大きい検問所が設置されていることが判明している。

 また今年7月には、米国のメディアが北朝鮮の秘密ウラニウム濃縮施設が、南浦市周辺にあると伝えている。

日本の公安とは無関係

 かつて、北朝鮮に拘束された日本の元新聞記者の場合は、日本の公安当局に北朝鮮で撮影した写真や、映像などを提供していた。

 スギモト氏について複数の関係者は、「日本の公安当局との関係はない」との見方だ。

 撮影したのは軍事施設ではなく、エネルギー関係施設ではないかとのことだ。意識せずに秘密の原油タンクなどを撮影して、とがめられた可能性がありそうだ。

 北朝鮮は、まだ今回の拘束を正式に発表していない。これはまだ水面下で帰国させる可能性を探っているのかもしれない。

 今回の事件で日本が北朝鮮との国交正常化交渉に利用するとの見方があるようだが、非核化が進んでいない段階では、難しいだろう。

 安倍政権は、拉致問題をめぐる日朝交渉にも慎重な姿勢なので、すぐに解放には動かない

五味 洋治(ごみ ようじ)
1958年長野県生まれ。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年、韓国延世大学語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大に客員研究員として在籍。現在、論説委員。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないか』(創元社、2017年)『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋、2018年)など。
公式メールマガジン http://foomii.com/00123

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