補助金を受け取る側が支給額や支給先まで決定
韓国で「慰安婦問題」を長く取り仕切ってきた尹美香(ユン・ミヒャン)氏の裁判で懲役5年の求刑が下った。
国からの補助金を不正に受給し私的に流用した横領詐欺事件だが、その政府補助金の多くを支給した官庁が女性家族省だった。
その女性家族省は、2022年には2700あまりの団体に計3900億ウォン(約400億円)の補助金を支給した。
しかし、支援対象となった団体が、実際にどのように事業を遂行し、補助金をどのように使ったのかについての実施報告や会計報告について厳密な審査は行われず、補助金の管理と監査はいい加減だったと指摘される。
たとえば、尹美香氏と正義連(日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯)の不正会計疑惑が持ち上がったあと、国会が女性家族省から委託を受けて正義連が行っている「慰安婦被害者の生活安定支援事業」の事業報告書の提出を求めたことがあったが、女性家族省は「業務遂行に支障を招く」という理由だけでこれを拒否したことがあった。
また、「慰安婦被害者」の世話する団体に支給される各種支援金の規模を決める審議委員会には、尹美香氏をはじめ複数の挺対協(韓国挺身隊問題対策協議会)関係者が含まれていた。
つまり、「おばあさんたちへの支援金の受け取りとそれを執行する」立場にある挺対協幹部が自ら審議委員になって、どこにいくら配当するかを決めていたのである。
女性家族省と慰安婦団体の「共犯・庇護関係」
女性家族省は2001年、金大中(キム・デジュン)政権の時に「女性省」として発足したが、これまで歴代14人いる長官(閣僚)の中で、挺対協出身者が2人、市民運動グループの「参与連帯」出身者が2人、女性運動団体出身者が4人など、慰安婦団体や女性市民運動とつながりがある関係者が半数以上を占めている。
女性家族省による挺対協と正義連への政府補助金の支出は、文在寅(ムン・ジェイン)政権になった2017年に1億ウォン(約1300万円)、2018年は3億3000万ウォン(約3400万円)、2019年は6億3900万ウォン(約6600万円)と倍々で増えていく。
これは韓国女性団体連合共同代表で「日韓慰安婦合意は国際協定でもなく無意味だ」と否定した鄭鉉栢(チョン・ヒョンベク)氏が長官に就任した以降のことだ。
尹美香氏の不正が発覚したあとでも、女性家族省がしっかりとした会計監査をやろうともしなかったのは、挺対協とも関係が深い李貞玉(イ・ジョンオク)長官時代だった。
それはある意味、「共犯、あるいは庇護(ひご)関係」(中央日報2020年6月12日)にあったとさえ言われる。
政権交代で保守派の大統領となった尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏が公約に掲げたのが、女性家族省の廃止であり、民間団体や市民運動、労働団体に支払われる補助金についての適正な管理と厳正な審査だった。
小須田 秀幸(こすだ ひでゆき)
NHK香港支局長として1989~91年、1999~2003年駐在。訳書に許家屯『香港回収工作 上』、『香港回収工作 下』、パーシー・クラドック『中国との格闘―あるイギリス外交官の回想』(いずれも筑摩書房)。2019年から2022年8月までKBSワールドラジオ日本語放送で日本向けニュースの校閲を担当。「ノッポさんの歴史ぶらり旅」をKBS日本語放送のウェブサイトとYouTubeで発表している。