9月末から2日に1回のハイペースに
北朝鮮が発射する弾道ミサイルが、異常なペースで続いている。
1回の発射でなんと最低でも4億円、核開発には2300億円が使われているとの推計も出されている。
北朝鮮がミサイルの発射を繰り返すようになったのは、今年の1月からだ。この月だけで7回、11発も発射した。
その後、回数は減ったものの、9月末から再び増え始め、9月末からは、ほぼ2日に1回のハイペースになっている。
種類、発射時間、場所もバラバラだ。通常、北朝鮮はミサイルを早朝発射するが、未明や昼にも打ち上げられた。
これまで発射されたことのない場所からの発射も多い。
これは、移動式の発射台を使っているからだろう。水中からも発射されていた。ミサイルの能力を誇示して、米国や韓国からの攻撃をけん制する狙いだろう。
今年1月だけで94億円使う
米政府系放送局のボイス・オブ・アメリカ(VOA)は、北朝鮮がミサイル発射に要した費用は今年1月分だけで、最大6500万ドル(約94億円)に上るとすると報道した。
米国の有力シンクタンクであるランド研究所のブルース・ベネット上席研究員の分析を引用したもので、「算出にはミサイル本体や燃料、発射後の追跡にかかる費用を考慮した」という。
短距離ミサイルの発射費用を1回300万~500万ドル(約4億3000万~7億2000万円)。中距離弾道ミサイル(IRBM)は1000万~1500万ドル。射程の長いICBMの発射には1発あたり2000万~3000万ドルを要すると積算した。
1月には7回にわたって中距離や短距離の弾道ミサイルなど計11発を発射した。これらを金額に直せば計4000万~6500万ドルに達するという。
6500万ドルは、米農務省が基準とするタイ米15万トン購入できる額に相当する。
北朝鮮の住民が1日に消費する穀物量は約1万トンとされており、およそ半月分にあたるとされる。
国民が消費する2か月分が消える
10月10日現在で北朝鮮のミサイル発射は25回、約40発となっている。
ベネット氏の計算をおおざっぱに当てはめると、ミサイルの数が1月ひと月分の4倍になっているので、約400億円を使ったことになる。
これは国民が2か月に消費するコメの量に相当する。いやはや、ずいぶん気前良く使うものだ。
小型核開発には2300億円つぎ込む
韓国政府は、かつてミサイルの発射費用を事細かに計算して、金正恩(キム・ジョンウン)総書記の「カネの無駄使い」を指摘していたが、北朝鮮に理解を示す文在寅(ムン・ジェイン)政権時代には、控えていた。
保守系の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は、北朝鮮との対決色を打ち出しており、再び内部で計算をしている。
韓国国防省傘下の韓国国防研究院がまとめ、韓国国会で明らかにした資料によれば、北朝鮮が進めている戦術核兵器(出力を抑えた小型の核兵器)の開発には、最大で16億ドル(約2300億円)に達しているという。
これは、トウモロコシに換算すると410万トンとなる。これは何と、北朝鮮の食糧不足量の4年分に相当するという。ミサイルと核の開発をやめれば、数年間、住民は食べるものに困らないはずだ。
住民は、壮大な無駄使いに怒っているかというとそうでもないらしい。
現地からの情報では、日常的に発射しているため、慣れっこになって関心も持っていないという。
兵器開発は第2経済委員会が担当
北朝鮮は1970年代に「第2経済委員会」を組織し、内閣から分離させた。
韓国政府が運営するサイト「北韓情報ポータル」によれば、この委員会は独自に軍需品の計画、生産、分配、対外貿易を行っており、傘下に数百に及ぶ軍需工場および企業所を持つ。
収入源は闇の中だが、暗号資産市場へのハッキングを行って資金を稼いでいるとも言われる。
金正恩総書記は、一連のミサイル発射に関連して、「敵と対話する内容もなく、必要性も感じない」と述べ、「核戦闘武力を百方に強化していく」と表明したが、これは本心ではあるまい。むしろ米国と核軍縮協議を開始し、北朝鮮や自分への脅威を減らそうとしているはずだ。
最後は間違いなく核実験と専門家
北朝鮮分析の第一人者である韓国の丁世鉉(チョン・セヒョン)元統一相は、公共放送であるKBSのラジオ番組に出演し、ミサイルや核開発に必要な資金について聞かれ、「北朝鮮は我々のような資本主義の国とは違い、軍事経済が別途存在している。資金は豊かにある」と説明した。
その上で、「米国が北朝鮮と協議せざるを得ないよう、今後も極限までミサイルの発射を繰り返し、最後は核実験をするだろう」と予測した。
五味 洋治(ごみ ようじ)
1958年長野県生まれ。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年、韓国延世大学語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大に客員研究員として在籍。現在、論説委員。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないか』(創元社、2017年)、『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋、2018年)、『新型コロナ感染爆発と隠された中国の罪』(宝島社、2020年・高橋洋一らと共著)、『金正恩が表舞台から消える日: 北朝鮮 水面下の権力闘争』(平凡社、2021年)など、近著『日本で治療薬が買えなくなる日』(宝島社、2022年)
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