各地で退役軍人らが抗議集会
韓国のKBS(韓国放送公社)が、ベトナム戦争のドキュメンタリー番組を放送したのだが、そこには韓国軍による民間人虐殺などのショッキングな内容が含まれていた。
これに対して、9月4日には韓国国家報勲処の朴敏植(パク・ミンシク)処長が、
「参戦有功者とその家族を侮辱した」
と、遺憾を表明。国民から受信料を取っている公営放送が、一部のベトナム人の主張に放送時間の大部分を割愛し、偏向報道を行ったとして強く批難している。
また、この報道に反発した退役軍人組織などによる抗議集会が各地で行われ、訴訟の準備も行われているという。
米軍や南ベトナム軍が証拠や証言を収集
韓国軍は、ベトナム戦争で幾度か民間人虐殺事件を起こしている。これは数々の物証や映像資料なども存在する史実だ。
1968年2月12日には、韓国軍海兵隊第2海兵旅団第1大隊が、ベトナム中部フォンニィ・フォンニャット村で無抵抗の住民69人(70人以上という説もある)を小銃や銃剣によって殺害し、民家に放火して立ち去った。
直後に駆けつけた米軍や南ベトナム軍が、生き残った村人を救助した際に現場を撮影し、韓国軍の犯行を証明する多くの証拠や証言を収集している。
韓国軍海兵隊は2月25日にもハミ村で住民135人を殺害した。この時は村の広場に人々を集めて小銃を一斉射撃、さらに手榴弾を投げ込んで皆殺しをはかった。
1999年には事件現場に虐殺記念碑が建立されたが、韓国政府や退役軍人団体は、碑文に刻まれた虐殺の状況を削除修正するようベトナム側に圧力をかけた。
強姦した後に殺害が常套手段
発覚から現在まで、韓国政府は住民虐殺を否定している。
当初は、韓国軍の軍服を着たベトコン(南ベトナム解放民族戦線)の陰謀と主張していたが、事件を調査した米軍監察官はこれを否定。事件は韓国海兵隊隊による犯行とする報告書を提出している。
また、今年2月17日にはベトナム人被害者が起こした裁判で、元韓国軍海兵隊兵士が虐殺事件について証言。
それによれば、村人をすべて田んぼに集めて、中隊長の命令によって全員の殺害を実行し、そこには女性や子供、高齢者も多く含まれていたという。
このほかにも、当時を生きたベトナム人から「韓国軍兵士は、女性を強姦した後に殺害することが多かった」「韓国兵が妊婦や子供を井戸に落として殺害した」などといった証言が数多く寄せられている。
ベトナム戦争では、米軍によって500人以上の住民が殺害されたソンミ村虐殺事件が有名になりすぎて、韓国軍の犯行がかすんでしまった。
が、当時は韓国軍も「残虐な軍隊」として住民には恐れられていたようだ。
日帝残滓より虐殺事件を注視すべきでは?
これだけ多くの証拠があるにもかかわらず、今回のKBS報道を「偏向」と断定して韓国軍の犯行を否定する国家報勲処とは何か。
国民愛国心を高揚させることを目的に1985年に設立された政府機関であり、退役軍人など国家に功績のある人々に対する政策立案などもその職務に含まれる。
近年では、“日帝残滓(ざんし)”の根絶運動にも深く関わっている。
また、独立運動功労者たちの過去の“親日行為”を摘発し「偽の独立有功者」として糾弾することにも熱心だったりする。
しかし、親日行為と民間人虐殺。どちらの罪のほうが重いのだろうか。
ベトナム戦争の功労者として勲章をもらった将兵の中には、それに加担した者もいるはず。
功労者の叙勲などに関わる機関ならば、偏向報道と簡単に決めつけずに、新日行為の摘発と同じくらいこちらにも関心を持って調査を行うべきか、と。
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社)、近著『明治維新の収支決算報告』(彩図社、2022年)。「さんたつ by 散歩の達人」で連載中。